自動車販売・整備
自動車整備向け|「本当に要るんですか」と言われない追加整備の伝え方
車検で預かってから見つかった不具合を、写真と実測値と交換の目安を並べて伝えます。「今すぐ」「次回でいい」「見ておくだけ」の3つに分けて、断るボタンを同じ大きさで並べます。承認率を上げることは目標にしません。
「ブレーキパッドが減っています。交換したほうがいいです」
車検で預かった車から電話がかかってきます。お客さまは工場にいません。パッドも見ていません。
見えないものを、言葉だけで信じろというほうが無理です。 それでも、その場で返事を求められます。
62,000円で預けた車が、84,700円になって返ってきます。説明を聞いても、頭に残るのは金額が増えたことだけです。
正直にやっている工場ほど、この構造で損をします。本当に危ないものを「今すぐ」と言っても、疑われます。
写真と数字を出して、断れる形で渡す。そういう仕組みを作ります。画面で順に説明します。
先にお伝えしておくこと
作るときに外さない線を3つ決めています。
- 断るボタンを、承認と同じ大きさで並べます。 「今回は見送る」と「お願いする」は同じ幅・同じ高さです。片方を小さくしたり、薄い文字リンクにしたりしません
- 全部を「今すぐ」にしません。 今すぐ/次回でいい/見ておくだけ、の3つに分けます。全部を今すぐにすると、次から全部が疑われます
- 承認率を目標にしません。 上げようとすると、押しが強くなります。数えるのは、断られた件数のほうです
この3つを守ると、売上は下がるように見えます。それでいいと思っています。整備で失うのは、その1回の追加整備ではなく、次の車検です。
お客さま側の画面
1. 満了日を、ぼかさない
車検の案内です。満了日の1ヶ月前に届きます。
いちばん上に、満了日とあと何日かを出します。「そろそろ車検の時期です」ではありません。2027年2月17日、あと28日。
そして、この日を過ぎると公道を走れないことも書きます。急がせるためではなく、知らないと本当に困るからです。
見積は法定費用と基本料を分けて出します。法定費用はどこで受けても同じ金額です。工場の取り分がどこかを、隠しません。
いちばん下の一行も見てください。
他店で車検を受けられる場合は、ご連絡ください
他店に行く前提の一文を、こちらから入れています。書かないほうが得に見えます。それでも書くのは、この案内が営業ではなく連絡だからです。

2. 断るボタンを、同じ大きさで並べる
ここがこの仕組みの中心です。この記事でいちばん見てほしい画面です。
リフトで上げて見つかった4件が並びます。1件ずつに写真と実測値と目安が付いています。
- ブレーキパッド — 残り2.5mm(新品10mm/2mmで警告)。今すぐ
- リアタイヤ2本 — 溝2.8mm(車検は1.6mmから)。次回でいい
- ドライブシャフトブーツ — ひび、まだ破れていません。次回でいい
- バッテリー — 新品比62%(50%を切ると始動しにくい)。見ておくだけ
「今すぐ」は4件のうち1件だけです。 ここが要点です。全部を「今すぐ」にした瞬間、この画面は写真つきの押し売りになります。
そして各項目の下を見てください。「今回は見送る」と「お願いする」が、同じ幅で並んでいます。
断るほうを小さくしたり、薄い文字にしたりしていません。断りにくい形にした時点で、写真も実測値も意味がなくなります。 ここは設定で変えられないようにしています。
この画面で、西村さまは4件のうち2件を見送っています。 タイヤ21,600円とバッテリー14,300円。合わせて35,900円が、この工場に入りませんでした。
それでいいと思っています。 断れた人は、次の車検も持ってきます。

3. やらなかった作業も、残す
作業が終わったときの報告です。
やった作業が3件。その下にやらなかった作業が2件、金額に取り消し線を引いて残っています。
消してもいいところです。消したほうが請求書はすっきりします。それでも残すのは、断ったことが無かったことにならないためです。
お客さまの側から見ると、これは「断っても記録に残る」という意味です。次に同じものを勧められたとき、前に断ったことをこちらが覚えていると分かります。

4. 断ったあと、こちらから連絡しない
お車の記録です。整備の履歴と、いま見送っているものが並びます。
タイヤとバッテリーが「見送り中」として残っています。いちばん下にはこう書いてあります。
次にお預かりするときに、もう一度ご案内します。
書いてあるのはこれだけです。 電話もメールもしません。次に車を預かったときに、この2件を先に出すだけです。
断った内容が営業リストになるなら、お客さまは次から断らなくなります。 だから、こちらからは連絡しません。

工場側の画面
5. 「返事待ち」を、独立した状態にする
今日の入庫です。フロントが見ます。
状態は5つだけ。入庫待ち、点検中、返事待ち、作業中、完了。
「返事待ち」を独立させているのは、ここで止まっている車がいちばん見落とされるからです。工場は動いているのに、その1台だけ何も進んでいません。
そして、返事が来るまで追加分の作業は始めません。車検の作業だけ先に進めます。返事が来る前に手を付けると、断れなくなります。

6. 「今すぐ」を選ぶと、理由が必須になる
整備士の画面です。この画面だけ、後藤さんが使います。
左のサイドバーを見てください。項目が3つしかありません。自分の作業、点検の入力、車両カード。工場全体の数字も、お客さまへの送信もありません。 判断するのは整備士、送るのはフロント、と分けているからです。
真ん中が入力欄です。写真、実測値2.5mm、目安。そして伝え方の3択。
「今すぐ」を選んでいます。その下の「なぜ今なのか」が空です。だから右下の「フロントに回す」が押せません。
ここが、この仕組みでいちばん効いているところです。 「次回でいい」「見ておくだけ」なら理由が無くても回せます。強く言うほど、説明が要るという形にしています。
右のパネルも見てください。前回の車検が2025年2月、そのとき残り6mm。2年で3.5mm減っています。
この計算が「なぜ今なのか」の中身になります。 同じペースなら、次の車検を待たずに2mmを切ります。感覚ではなく、記録から出てきます。
写真は撮り直せます。暗い写真をそのまま送るくらいなら、撮り直したほうがいいからです。ただし送ったあとは差し替えられません。

7. 送る前に、自分たちを点検する
フロントの画面に戻ります。4件が表になって並びます。
「お客さまへの一行」は、整備士が書いた理由をそのまま使います。ここでフロントが盛ることはしません。 盛ると、次から全部が疑われます。
下の「送る前の自己点検」が、この画面の中心です。3つあります。
- 「今すぐ」は4件のうち1件(25%) — 全部を「今すぐ」にしていないか
- 4件とも写真と実測値がある — 数字の無い提案が混ざっていないか
- 「今回は見送る」が同じ大きさで並ぶ — ここは設定で変えられません
この3つが揃わないと送れません。 売りたい気持ちは、押しの強さではなく説明の量で出します。
右下の但し書きも見てください。全部お願いされた場合でも、こちらから増やしません。作業中に増えたものは、もう一度確認をいただきます。

8. 前回いくらで、何を見送ったかが1枚にある
車両カードです。この車の記録が時系列でつながります。
2025年の車検の記録に「ブレーキパッドは残り 6mm で点検のみ」と書いてあります。だから今回「2年で 3.5mm 減っています」という話ができます。
担当が代わっても、前と違うことを言わずに済みます。整備工場は人の入れ替わりがあります。そのたびにお客さまが一から説明し直すことにならないよう、記録のほうを残します。
右下に、この画面が出さないものを書いています。
- このお客さまの承認率 — 断りやすいお客さま/断りにくいお客さま、という見方をしないため
- 乗り換えのおすすめ — 整備の記録は、車を売るための材料ではありません
どちらも、作ろうと思えば作れてしまうものです。 だから、作らないと決めて画面に書いておきます。

9. この画面から、お客さまに連絡できない
見送られた項目の持ち越しです。22件あります。
普通に考えれば、ここは営業リストです。「そろそろあのタイヤ、どうですか」と電話をかければ、何件かは決まります。
その機能を入れていません。 下のボタンは押せません。
出るのは、その車が次に入庫したときだけです。「見ておくだけ」に至っては、次の入庫の欄すらありません。期限を切らないためです。
断ったことが次の営業リストになるなら、お客さまは断らなくなります。断りやすさは、断ったあとに何が起きるかで決まります。

10. 承認率ではなく、断られた数を数える
数字の画面です。ここも、見る指標の選び方そのものが提案です。
出しているのは4つ。追加整備の提案件数、見送り、「今すぐ」にした割合、持ち越しの案内ができた割合。
直近30日で提案が51件、そのうち22件が見送られています(43%)。
グラフの濃い部分が、見送られた分です。増えています。これを悪いこととして見ていません。
むしろ断られない状態が続くときのほうが、押しが強すぎないかを疑ったほうがいいです。 43%が0%に近づいたら、伝え方のどこかが歪んでいます。
「今すぐ」の割合は27%。3割を超えたら、付け方を見直す合図にしています。
右下に、出していない指標を書いています。追加整備の承認率と1台あたりの追加売上。
承認率を目標にした瞬間に、この仕組みは押し売りの仕組みになります。整備士が売上の数字を意識し始めると、判断が歪みます。だから画面に出しません。

どのくらい効くのか
計算で出せるところを出してみます。
説明にかかる時間。 電話で説明すると1件12分。留守番電話と折り返しで、何度もかけ直すことになります。写真を送れば、こちらの手は撮影と入力で1件4分です。51件で8時間分。
ただし返事までの速さは指標にしていません。 急かす形にすると、断りにくくなるからです。
見送られた22件。 金額にすれば大きな数字です。それでも、これを減らすための仕組みにはしていません。
時間より、断られた22件がちゃんと断られたことのほうが大事だと思っています。断れなかった22件のお客さまは、次の車検を他店に持っていきます。
ただし、リピート率が上がるとは書きません。実際に測っていないからです。
ここに挙げた数字は、月に60〜70台を入庫する認証工場を前提にした試算です。実際の効果は、車検の比率・整備士の人数・お客さまの層によって変わります。
導入について
お客さま側にアプリは入れません。 LINE の友だち追加だけです。すでに車検の案内をLINEで送っている工場なら、そこに乗せます。
整備士側はスマホです。 リフトの下で撮って、その場で数字を入れます。事務所のパソコンまで戻る形にすると、写真だけ撮って入力は後回しになります。
整備システムは置き換えません。 見積書も点検記録簿も請求もこれまでどおりです。担当するのは、点検で見つかったものをお客さまに伝えて、返事をもらうところだけにします。
期間の目安は2〜3ヶ月です。 いちばん時間を使うのは、項目ごとの目安を決めるところです。パッドは何mmで「今すぐ」か。タイヤは何mmか。ここは工場ごとに考え方が違います。決めずに使うと、整備士によって基準がばらつきます。
そして、断られたときにどうするかを先に決めます。 追いかけるのか、追いかけないのか。ここを決めずに仕組みだけ入れると、見送りの一覧がそのまま営業リストになります。
同じ仕組みが効く業種
預かってから金額が増える商売、見えないものを直す商売なら、そのまま応用できます。
- 住宅のリフォーム・雨漏り修理 — 壁を開けて初めて分かる。写真と追加見積の構造が同じ
- 水道・電気の修理 — その場で判断を迫られる。断りにくさも同じ
- バイク・自転車の整備 — 部品の摩耗を数字で見せられる
- パソコン・スマホの修理 — 開けてから分かる不具合と、追加の見積
- 害虫駆除・ハウスクリーニング — 見えないところを直す。ビフォーアフターの写真が信用の中身になる
「開けてみないと分からない」商売は、考え方が同じです。
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