専門用語を中学生に翻訳。技術者の話を惹きつけるBtoBライティング術
この記事の要点
- 専門用語は消すのではなく、読者が持つ知識に合わせて翻訳する
- AIに「読者・目的・残す用語」を渡せば下書きを一気に作れ、人は事実確認に集中できる
- 比喩と「できること(機能価値)」で言い換えると技術者の話は伝わる
技術部門が書いた原稿が、お客さまや経営層にまったく刺さらない。製品はすごいのに、文章になると専門用語だらけで読み飛ばされてしまう。BtoBの広報やマーケティングの現場で、こうした「翻訳の壁」に頭を抱えている方は多いはずです。
この記事では、専門用語を読者が分かる言葉に翻訳するための考え方と、AIを使って下書きを一気に作り、人が事実確認に集中する具体的な手順を解説します。専門知識がなくても進められるよう、現場目線でお伝えします。

Contents / 目次
専門用語の翻訳でやるべきことは3つ
結論から言うと、技術者の話を伝わる文章にするためにやることは3つです。この順番で進めれば、技術的な正確さを保ったまま、読みやすさを大きく上げられます。
- 準備:読者と目的を先に決める
- AIで下書き:専門用語を扱い方で仕分けし、AIに翻訳案を作らせる
- 人が確認:人が事実確認をする
テクニカルライティングとは、専門的な内容を、読み手が必要な情報だけを最小の負担で受け取れるように整理して書く技術のことです。むずかしい話を「子ども向けに薄くする」こととは違います。正確さはプロのまま、表現だけを読者に合わせる、という考え方です。
まず押さえてほしいのは、専門用語は「全部消す」ものではないという点です。読者がエンジニアなら用語はそのまま使った方が速く正確に伝わります。読者が経営者や購買担当なら、用語を翻訳しないと一文も頭に入りません。つまり、相手の知識レベルに合わせて用語の扱い方を変えるのが本質です。
用語の扱い方は、大きく3つに分けて考えると整理できます。
| 扱い方 | どんな用語か | 書き方の例 |
|---|---|---|
| そのまま残す | 読者が日常的に使う、業界の共通語 | 「API」(IT担当向けならそのまま) |
| 定義を添える | 初耳だが、文章の核になる重要語 | 「API。つまり、システム同士をつなぐ窓口のことです」 |
| 例えに言い換える | 仕組みより「何ができるか」を伝えたい語 | 「他社サービスと自動でデータをやり取りできます」 |
このうち最も効くのが、いちばん右の「できること(機能価値)への言い換え」です。読者が知りたいのは技術の中身ではなく、それで自分の何が変わるかだからです。たとえば「高耐久ガラスを採用」より「落としても割れにくいスマホを作れます」の方が、技術を知らない人にもまっすぐ届きます。
ポイント。専門用語を翻訳する前に「誰が・何のために読むか」を1行で決めてください。ここが決まらないまま書き始めると、用語を残すべきか消すべきかの判断ができず、文章が中途半端になります。
AIで翻訳する具体的な手順
ここからは、実際に手を動かす手順です。全体の流れは「準備」「AIで下書き」「人が確認・修正」の3段階で進みます。AIは下書きを猛烈な速さで作りますが、最終的に「これは正しいか」「これは伝わるか」を判断するのは人の仕事です。ここを分けて考えるのが失敗しないコツです。
準備。AIに渡す材料をそろえる
AIの翻訳の質は、渡す材料でほぼ決まります。何も指定せずに「分かりやすくして」と頼むと、ありがちな薄い文章になります。最初に次の3つを手元で決めておきましょう。
- 読者:誰が読むか。経営者か、現場の購買担当か、技術者かで翻訳の深さが変わる
- 目的:読んだ後にどうなってほしいか。資料請求か、社内の合意か、商談での理解か
- 残す用語:業界の共通語など、消さずに残したい用語のリスト
この3つに加えて、元になる技術者の原稿(メモでも箇条書きでも可)を用意します。これでAIに渡す材料はそろいます。
AIで下書きを作る。指示は短い「たたき台」で十分
いまのAIは、ざっくり頼めば自分で指示を整えてくれます。だから完璧なプロンプトを作り込む必要はありません。次のような短いたたき台から始めて、出てきた結果を見ながら対話で詰めていくのが現実的です。
あなたはBtoB企業の編集者です。次の技術原稿を、読者に合わせて翻訳してください。
【読者】[例:製造業の経営者。ITには詳しくない]
【目的】[例:自社製品の価値を理解し、問い合わせにつなげる]
【残す用語】[例:IoT、クラウド]
【元の原稿】
[ここに技術者のメモや原稿を貼る]
条件:
- 専門用語は、初出で「つまり〜」と短い定義を添える
- 仕組みより「読者にとって何ができるか」を中心に書く
- 一文は短く、一文に入れる内容は一つだけ
- 元の原稿にない事実や数字は足さない
最後の「元の原稿にない事実や数字は足さない」は必ず入れてください。AIは文章をなめらかにするために、頼んでもいない数字や効果を勝手に付け足すことがあるからです。ここを止めておくと、後の確認がぐっと楽になります。
人が確認・修正する。ここがいちばん大事
AIの下書きが出たら、人が確認します。生成はAIが得意ですが、「正しいか」「本当に伝わるか」の最終判断は人にしかできません。次のチェックリストを使って、上から順に見ていきましょう。
- 事実は正しいか:数字・仕様・できることに、元の原稿にない盛りや間違いが混じっていないか
- 用語は適切か:残すべき用語が消えていないか、翻訳が必要な用語が放置されていないか
- 例えがズレていないか:分かりやすさ優先で、技術的に不正確な例えになっていないか
- 一文は短いか:一文がおおむね50文字を超えて読みにくくなっていないか
- 結論が先にあるか:大事なことが後回しになって、読者が途中で離脱しない構成か
とくに「事実は正しいか」と「例えがズレていないか」は、技術を分かっている人にしか判断できません。元原稿を書いた技術者に、ここだけを確認してもらう体制を作ると、品質と速さが両立します。文章のトーンを自社らしく整えるコツはAI文章に自社らしさを注入するガイドでも詳しく解説しています。

翻訳がうまくいくと何が変わるか
専門用語の翻訳が習慣になると、まず効くのが「制作スピード」です。技術者の原稿をゼロから書き直していた作業が、AIの下書きを直す作業に変わるため、1本あたりの執筆時間を大きく減らせます。広報1人で何本も抱えている現場ほど、効果を実感しやすいところです。
次に変わるのが「読まれ方」です。専門用語で埋まった資料は途中で読むのをやめられますが、最初の数行で「自分の何が変わるか」が分かる文章は最後まで読まれます。結果として、問い合わせや資料請求といった次の行動につながりやすくなります。
ここで挙げる数字は、業種や読者で大きく変わるため一概には言えません。仮に1本あたりの執筆が3時間から1時間に減るとすれば、月10本で月20時間の余力が生まれる計算です。あくまで例示であり、自社の体制で実際に計測してから判断してください。
うまくいっている企業に共通するのは、「分かりやすさ」を個人のセンスに頼らず、仕組みにしている点です。読者の決め方、残す用語のリスト、確認チェックリストをチームで共有しているので、誰が書いても一定の品質に収まります。属人化していると、書ける人が辞めた瞬間に品質が崩れますが、仕組みにしておけば資産として残ります。
もう一つの共通点が、図解との合わせ技です。文章だけで説明しきれない仕組みは、図にした方が一瞬で伝わります。AIに構成を作らせる方法は文字情報を投げるだけでAIが図解構成を作る方法も参考にしてみてください。

よくある失敗と回避法
現場でよく見かける失敗は、だいたいパターンが決まっています。先に知っておけば避けられるものばかりなので、代表的な4つを「どんな状況で起きるか」「どうなるか」「どう防ぐか」のセットで紹介します。
失敗1。AIに丸投げして事実が崩れる
- どんな状況で起きるか:忙しいときほど、原稿をAIに貼って「分かりやすくして」だけで済ませがちです。
- どうなるか:AIが文章を整える過程で、元になかった数字や効果を付け足してしまうことがあります。BtoBでは事実と違う表現は信頼を一発で失います。
- どう防ぐか:元の原稿にない事実は足さないと指示し、出力後に必ず人が事実確認をする。この二重の歯止めで防げます。
失敗2。専門用語を全部消して中身が薄くなる
- どんな状況で起きるか:「分かりやすく」を意識しすぎると、専門用語を片っぱしから消してしまうことがあります。
- どうなるか:当たり障りのない、何も言っていない文章になり、技術力の高さがかえって伝わらなくなります。
- どう防ぐか:用語は消すのではなく翻訳するのが正解です。重要語は残して「つまり〜」と定義を添える、という方針をルール化しておくと崩れません。
失敗3。一文が長いまま放置される
- どんな状況で起きるか:技術者の原稿は、条件や例外を一文に詰め込みがちで、一文が100文字を超えることも珍しくありません。
- どうなるか:長い一文は、それだけで読者の頭の負担を増やし、離脱の原因になります。
- どう防ぐか:一文は50文字程度まで、一つの文に入れる内容は一つだけ、という「一文一義」を徹底しましょう。AIに「一文を短く区切って」と指示するだけでも、かなり改善します。
失敗4。例えがズレて技術的に間違う
- どんな状況で起きるか:分かりやすさを優先して例え話を入れたら、技術的には間違っていた、というケースもよくあります。
- どうなるか:読者は分かった気になりますが、誤解を広げてしまいます。
- どう防ぐか:例えを入れたら、必ず元原稿の技術者に「この例えで間違っていないか」だけ確認してもらってください。確認する範囲を例えと数字に絞れば、技術者の負担も最小限で済みます。
危ない表現を機械的に拾う仕組みはAI校正で危ない表現を自動検出するダブルチェック術も合わせてどうぞ。

使う側の落とし穴と現場の妥協点
ここまで読むと「AIに任せれば全部楽になる」と思えるかもしれませんが、現場ではそう単純にいきません。正直にお伝えすると、AIで翻訳の下書きは作れても、最終確認の工数はゼロにはなりません。むしろ、技術者が最後に事実を確認する工程は省けない、と割り切った方がうまくいきます。
よくある誤解が、「AIを入れれば技術者と広報のやり取りが不要になる」というものです。実際は逆で、AIが下書きを作る分、人は「どこを確認するか」をより明確に決めておく必要があります。確認すべきポイントが曖昧なままだと、AIが作ったそれらしい文章を、誰もチェックせずに公開してしまう事故が起きます。
内製と外注の切り分けも悩みどころです。判断の目安は次のように考えると整理できます。
- 内製に向く:毎週出るような定型の原稿、社内用語が多くAIに前提を渡しやすいもの
- 外注を検討:立ち上げ時のルール設計、用語集や確認フローの仕組み化、書き手が育つまでの伴走
見落としがちなコストもあります。残す用語のリストや確認チェックリストは、一度作れば終わりではなく、製品の追加や仕様変更のたびに更新が必要です。この更新を誰が担うかを決めておかないと、半年後にはリストが形骸化します。どのAIを使うか迷う場合は、用途で使い分ける考え方をChatGPT・Gemini・Claudeの使い分けで解説しているので参考にしてください。
向き不向きの本音も言っておきます。AIによる翻訳が最も効くのは、原稿の量が多く、読者が技術に詳しくない場面です。逆に、年に数本しか出さない、しかも読者が同じ技術者同士、という場合は、仕組みを作るより、その都度人が書いた方が早いこともあります。自社がどちらかを見極めてから取り組むのが、遠回りに見えていちばんの近道です。
よくある質問
AIに任せると文章が画一的になりませんか
指示が薄いと画一的になります。読者・目的・残したい用語・自社らしい言い回しを最初に渡し、出てきた下書きを人が直すことで、自社らしさは十分に保てます。AIはたたき台、仕上げは人、という役割分担が前提です。
専門用語は結局どこまで残せばいいですか
読者が日常的に使う言葉なら残し、初耳になりそうな重要語は定義を添える、というのが目安です。読者が技術者なら多めに残し、経営者や購買担当なら翻訳を増やします。読者像を1行で決めておくと迷いません。
AIが事実を間違えないか心配です
間違える前提で運用してください。AIは数字や効果を勝手に足すことがあるため、元の原稿にない事実は足さないと指示し、公開前に人が事実確認をします。特に数字と例え話は、原稿を書いた技術者に確認するのが安全です。
どのくらいで効果が出ますか
下書きの時短はすぐ実感できますが、品質を安定させるには用語リストや確認フローの整備が必要です。仕組みが回り始めるまでは、数本書きながらルールを育てる期間と考えると、無理なく定着します。
まとめ。翻訳は仕組みにすると資産になる
専門用語の翻訳は、書き手のセンスではなく、読者の決め方・用語の仕分け・AIと人の役割分担という「仕組み」で解決できます。AIに下書きを任せ、人が事実と伝わりやすさを確認する。この形を一度作れば、誰が書いても一定の品質に収まり、チームの資産として残ります。
ここまで読んで、自社で仕組みを組み立てるのは大変そうだと感じた方は、気軽にご相談ください。コレットラボでは、用語の整理から確認フローの設計、AIで社内に翻訳の仕組みを根づかせるところまで、現場に並走して支援しています。まずは現状を整理するだけでも構いません。AI業務システム化の詳細はこちらからお話を聞かせてください。
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