製造業・金属加工
製造業向け|見積依頼を読み取って、値段を入れるだけの状態にする
メール・FAX・電話でバラバラに来る見積依頼を、1つの窓口で受けます。手書きのFAXも図面のPDFも読み取って、品名・数量・材質・納期を項目に起こし、同じ図番の過去の見積を並べます。値段を決めるのは人です。
「この部品、前いくらで出したっけ」
見積依頼が来ます。図面を見ると、たしかに前にも作ったことがある部品です。でも、そのときの見積書がどこにあるか分かりません。
だから、また一から積算します。積算というのは、材料と工程を拾って原価を出し、いくらで受けるかを決める作業のことです。 1件に30分から1時間かかります。
そのうえ、依頼はメールでもFAXでも電話でも来ます。手書きのFAXも、図面のPDFも来ます。積算できるのは社長と工場長だけで、2人とも現場に出ています。
結果として、返しそびれる依頼が出ます。返さなかった見積は、そのまま失注です。
依頼を1つの窓口で受けて、読み取りと下ごしらえを済ませる。そういう仕組みを作ります。画面で順に説明します。
先にお伝えしておくこと
作るときに外さない線を3つ決めています。
- AIに値段を決めさせません。 数量・材質・工程・過去の実績まではそろえますが、単価の欄は空のまま出します。AIはその日の材料相場も、工場の手空きも、その取引先との付き合いも知りません
- 読み取りを信用しきりません。 手書きのFAXは読み違えます。自信のない項目には印を付けて、原本と並べて見せます。原本は消しません
- LINEを使いません。 扱うのは取引先の図面と単価です。外部のメッセージアプリには流しません。スマホから見る画面も、社内のブラウザで開きます
とくに1つ目が土台です。値決めは経営の判断です。 ここを自動にすると、赤字の見積が静かに出ていきます。
社長・工場長側の画面
1. 届いた時点で、読み取りまで終わっている
朝いちで開く画面です。新しい見積依頼が並びます。
ここに出ているのは、届いた件名だけではありません。すでに中身が読み取られていて、同じ図番の過去の見積があるかどうかまで出ています。 図番というのは、取引先が図面に付けている品番のことです。
前日の夕方に届いたFAXも、朝には項目に起こされています。「3品目のうち2件は過去に見積あり」と書いてあれば、その2件は探す手間がありません。
いちばん上の赤い帯を見てください。3日以上返していない依頼です。新しいものより先に、これが目に入るようにしています。
下の但し書きも読んでください。図面と単価は社内のサーバーだけで扱います。この画面も社内のネットワークからしか開けません。

2. 前回といくら違うかを添える
工場長が単価を入れ終わると、社長に承認が回ります。訪問先のスマホから承認できます。
金額だけを見せても判断できません。同じ図番の前回がいつで、何個で、いくらだったかを並べます。今回は40個で8,200円、前回は30個で8,600円。5%下げています。
その下に、工場長のメモが付いています。「ステンレスが上がっているので、8,200までにしています」。数量が増えた分は下げたが、材料が上がっているので下げ幅は小さくしたという判断です。
この判断は、過去の数字を並べただけでは出てきません。だから人が入れて、人が承認します。
承認しても、取引先には届きません。送るのは事務所からです。 ここを分けておかないと、押し間違いがそのまま社外に出ます。

3. 訪問先で「前いくらだった」に答えられる
商談の最中に聞かれます。「あの部品、また頼んだらいくら」。
図番でも、品名でも、取引先名でもさがせます。出てくるのは日付・数量・単価と、受注したか失注したかです。
受注したものだけを出しません。いくらなら通らなかったのかが分からなくなるからです。
下の「図番の頭が同じもの」は、同じ図面群の別の部品です。これは機械的に前の文字が一致するものを出しているだけで、AIが「近い」と判断しているわけではありません。
いちばん下の但し書きが大事です。ここに出ているのはそのときの単価です。材料費も工賃も変わります。この場で即答するための材料であって、答えそのものではありません。

4. 返していないものだけを出す
この画面には、返していない依頼しか出ません。8件です。
3日以上たっているものを上に分けています。7日と3日。この2件は、たぶんもう決まっています。
返信の速さを競う話ではありません。速く返すことを目標にすると、確認を飛ばす力が働きます。ここで見ているのは返しそびれていないかだけです。
取引先への催促は自動では出しません。受けるかどうかは、設備の空きや納期など、こちらの都合でも決まるからです。

事務所側の画面
5. FAXもメールもWebフォームも、同じところで受ける
見積依頼の一覧です。経路が違っても、ここに集まります。
FAXは複合機から自動で取り込みます。取引先に送り方を変えてもらう必要はありません。 「メールにしてください」と頼むのは、こちらの都合です。
状態は4つだけです。読み取りの確認待ち、積算待ち、承認待ち、提出済み。増やすと、誰も更新しなくなります。
並びは届いた順です。放っておかれているものが自然と上に来ます。

6. 原本を消さない
ここが1つ目の山場です。
左が届いたFAXの原本、右が読み取った内容です。手書きの依頼書から、図番・品名・材質・数量・希望納期を項目に起こしています。
2箇所に印が付いています。読み取りに自信がないところです。
- 1の材質。手書きの「SUS304」が「SS400」とも読めます
- 3の数量。「120」の1が薄く、「20」とも読めます
下の「河野さんの確認」を見てください。事務の方が原本と見比べて、どちらかを選んでいます。選んだ理由まで残します。
備考に電解研磨の指示があるので、ステンレスで間違いない。
電解研磨というのは、ステンレスの表面をなめらかにする処理のことです。その指示が付いているなら、材質は鉄ではなくステンレスのはずです。 こういう当たりの付け方は、現場の人にしかできません。
右端も見てください。図番は3件とも読めましたが、図番が無い依頼も受けます。 走り書きのFAXでも通して、あとから紐づけます。きれいな依頼だけを受ける作りにすると、現場で使われません。
原本は消しません。読み取り結果だけを見て積算する運用にはしません。

7. 単価の欄を、空けたまま出す
2つ目の山場です。この記事でいちばん見てほしい画面です。
表を見てください。図番も、品名も、材質も、数量も、工程も入っています。同じ図番の過去の実績まで並んでいます。
単価の欄だけが空です。
これは作りかけではありません。ここは人が入れるところだと決めているからです。合計も「—」のままで、「見積書を作る」は押せません。
AIが値段の候補を出すこともしません。出せるのは、いつ・何個・いくらで出したかという過去の事実までです。
右の「単価を入れられる人」も見てください。工場長と社長の2人だけです。この画面を開いている事務の方は、ここまで全部できるのに、単価だけは入れられません。
これがこの仕組みの狙いです。積算できる人が2人しかいないなら、その2人の手元に単価を入れる時間だけを残します。 探す時間と、項目に起こす時間は、他の人に渡します。
2番目の品目に「実績なし」と出ているのも大事なところです。全部が過去実績と当たるわけではありません。 当たらなかったものは、当たらなかったと出します。

8. 日付と数量を、必ず添える
過去の見積をさがす画面です。事務所側では、条件を細かく変えてさがせます。
出しているのは単価だけではありません。いつの見積で、そのとき何個だったかを必ず添えます。日付の無い過去単価は、根拠のように見えて根拠になりません。
右のグラフを見てください。10個で11,400円、20個で9,200円、30個で8,600円。数量が増えると単価が下がっています。
ただし2022年と2024年では材料費が違います。この線をそのまま延ばして今の単価にはできません。 そう書いてあることに意味があります。
失注も並べます。2022年の11,400円は通りませんでした。面取りの指示が付いていた分だけ高くなっています。受注したものだけを出すと、いくらなら通らなかったのかが分かりません。

9. 何をいくらで出したかが、1社分つながる
取引先カードです。1件の依頼が届いてから見積書を送るまでが、時刻つきで並びます。
誰が何をしたかも残ります。読み取りを確定したのは事務の方、単価を入れたのは工場長、承認したのは社長。担当が代わっても、前と違うことを言わずに済みます。
右上の「よく来る図番」も見てください。同じ図番が4回、3回と繰り返し来ています。次に来たときは、探さなくても前回が出ます。
その下の帯は、この取引先が何で送ってくるかです。FAXが24件、メールが4件。この会社はFAXです。 画面にそう書いてあると、「メールに変えてもらいましょう」という話が出にくくなります。

10. 日数ではなく、返しそびれの数で見る
数字の画面です。ここは、見る指標の選び方そのものが提案です。
出しているのは4つ。今月の見積依頼、提出できた割合、3日以上返していない件数、過去に同じ図番がある依頼の数。
グラフを見てください。依頼の件数はほとんど変わっていません。変わったのはそのうち何件を返せたかです。濃い部分が提出できた分、薄い部分が返せなかった分です。
右下の「出していない指標」も見てください。見積提出までの平均日数と、1件あたりの積算時間。この2つは、あえて出していません。
日数を目標にすると、確認を飛ばす力が働きます。速く積算することは、正しく積算することではありません。
4つ目の「過去に同じ図番がある依頼 31件(53%)」が、この画面でいちばん大事な数字です。半分以上は前にも見積を出しているのに、探せないから毎回ゼロから積算していたということです。

どのくらい効くのか
計算で出せるところを出してみます。
読み取って項目に起こす時間。 1件15分として、月58件で14時間30分です。FAXを見ながらExcelに打ち直す作業が、ここに当たります。
過去の見積をさがす時間。 1件8分として、図番が当たった31件で4時間8分。合わせて月18時間分です。
ここには、探しても見つからずに諦めた分を入れていません。数えられないからです。実際にはもっとかかっています。
返せなかった依頼。 前月は61件のうち17件、今月は58件のうち8件です。9件分が返せる計算になります。
時間より、こちらのほうが効きます。返さなかった見積は、100%失注です。 返せば、少なくとも土俵には乗ります。
そして、いちばん大きいのは時間の話ではありません。積算できる2人が、積算だけをやればよくなることです。探す・打ち直す・確認するは、他の人に渡せます。
ここに挙げた数字は、従業員20名ほどの加工業を前提にした試算です。実際の効果は、依頼の数・図面の複雑さ・扱っている材質によって変わります。
導入について
取引先に何かをお願いすることはありません。 FAXはFAXのまま、メールはメールのままで大丈夫です。複合機から自動で取り込みます。
事務所側も現場側もブラウザです。 いまお使いのパソコンとスマホでそのまま開けます。アプリは入れません。
図面は社内から出しません。 取引先の図面は取引先の資産で、守秘義務契約を結んでいることもあります。どこで処理してどこに置くかを、先に決めて書き出します。
生産管理システムは置き換えません。 工程管理も原価計算もこれまでどおりです。担当するのは、依頼を受けてから見積書を出すまでの間だけにします。
期間の目安は3〜4ヶ月です。 いちばん時間を使うのは、過去の見積を探せる形にするところです。紙のファイル、共有フォルダのExcel、担当者のパソコン。散らばっているものを集めます。
ここは会社ごとに事情が違うので、既製品では合いません。図番の付け方も、工程の呼び方も、そこの会社のものです。
誰が単価を入れて誰が承認するかも、一緒に決めます。 いくらまでなら工場長の判断でいいか。どこからが社長の承認が要るか。ここを決めずにツールだけ渡すと、いちばん危ない使い方をされます。
同じ仕組みが効く業種
依頼が紙やPDFで来て、値段を出すのに経験が要る商売なら、そのまま応用できます。
- 金型・治具の製作 — 図面から工程を拾い、過去の似た型の実績を並べる
- 印刷・看板 — 用紙・サイズ・部数・加工の組み合わせで単価が変わる
- 建材・資材の卸 — 手書きの発注書や拾い出し表を読み取って、在庫と単価を当てる
- 電気工事・設備工事 — 図面と仕様書から材料をひろい、過去の同種工事と突き合わせる
- 運送 — 荷姿と区間の依頼が繰り返し来て、過去の運賃をさがしている
「前にも同じものを見積もったはずなのに、探せない」商売は、考え方が同じです。
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