SaaS契約の洗い出し方|情シス1人で進める5ステップとチェックリスト
この記事の要点
- 散らばったSaaSは集める・並べる・捨てるの3ステップで、重複と使われていない契約を見つける
- 契約情報は法人カード明細や請求書などお金の出口から逆算して洗い出す
- AIは一覧化と削減候補出しまで。解約判断と現場確認は必ず人が行う
「いつの間にかSaaSが増えていて、毎月いくら払っているのか誰も全体を把握していない」。情シスを1人で兼任していると、こんな状態になりがちですよね。請求書を並べてみたら、同じような機能のツールが3つも契約されていた、退職した人のアカウントがまだ生きていた、ということも起こります。
この記事では、社内に散らばったSaaSの契約を洗い出して、重複している契約や使われていないアカウントを減らすための具体的な手順をお伝えします。AIをどこで使うと作業が一気に楽になるのか、逆にAIに任せてはいけない部分はどこか。情シスが1人でも回せるやり方に絞って解説します。
Contents / 目次
結論。情シス1人がまずやるべきは「集める・並べる・捨てる」の3つ

先に結論からお伝えします。SaaSのムダを削る作業は、難しく考える必要はありません。やることは大きく3つだけです。「契約情報を集める」「一覧に並べて見比べる」「使われていないものを捨てる」。この順番で進めると、重複している契約や使われていないアカウントを見つけやすくなります。
ポイントは、いきなり高機能な管理ツールを導入したり、AIに「うちのSaaS整理して」と丸投げしたりしないことです。まずは人の手で情報を集めるのが先で、AIはそのあと「並べる」「見比べる」作業を高速化する相棒として使います。順番を間違えると、かえって時間がかかったり、機密情報を漏らしたりするので注意が必要です。
なぜ今これをやる価値が高いのか。理由は2つあります。ひとつは、多くのSaaSにAI機能が加わり「とりあえず契約」が増え、気づけば似たツールが乱立しやすくなっているから。もうひとつは、社員が会社に無断でAIツールを使うシャドーAI、つまり情シスが把握していないAI利用が、セキュリティ上の大きな課題になっているからです。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織編の3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて入りました。SaaS契約の見直しは、コスト削減とセキュリティの両方に効く一石二鳥の取り組みなんです。
まずは、この3ステップが全体のどこに位置するのかを一覧で見てみましょう。
| ステップ | やること | AIの役割 | 担当者が行うこと |
|---|---|---|---|
| ①集める | 請求書・カード明細・各ツールの管理画面から契約情報を集める | 使わない(機密が多いため人手で) | 情報の収集と確認 |
| ②並べる | ツール名・用途・金額・利用者数を一覧表にする | 表の整形、重複の洗い出し | 用途のグループ分けの最終判断 |
| ③捨てる | 重複・未使用・退職者アカウントを解約/削除する | 削減候補のリスト化と理由づけ | 解約の意思決定と現場への確認 |
ここが肝心。AIは「並べる」「候補を出す」までが担当で、「捨てる」という最終判断は必ず人が行います。AIの提案を鵜呑みにして解約すると、実は重要な業務で使われていた、という事故につながります。
SaaS契約を洗い出す具体的なやり方。5ステップとAIの使いどころ

ここからは実際の手順です。さきほどの3つをもう少し細かく分けると、現場では5つのステップで進めるのが分かりやすいです。読みながら、自社の状況に当てはめてみてください。
ステップ1。契約情報を「お金の出口」から集める
最初にやるのは、契約しているSaaSを全部洗い出すことです。ここで一番確実なのは、機能から探すのではなく「お金の出口」から逆算することです。具体的には、法人クレジットカードの利用明細、経理が持っている請求書、銀行の引き落とし履歴。この3つを突き合わせると、毎月・毎年お金が出ていっているサービスがほぼ漏れなく見つかります。
さらに、シングルサインオン(社員が1つのIDで複数サービスにログインする仕組み)を使っているなら、そのログイン履歴も突き合わせます。お金は出ているのにログインがゼロなら、それは使われていないツールの候補です。逆に、ログインはあるのに経理が把握していないものは、現場が個別に契約したシャドーITの可能性が高いです。
シングルサインオンを使っていなくても、ツールによっては管理画面で利用状況を確かめられます。Google Workspace は、管理コンソールの[ユーザー]の「最終ログイン」欄に、最後にログインしたおおよその時期が出ます(反映まで数時間から3日ほどかかります。Google Workspace 管理者ヘルプ)。Microsoft 365 は、管理センターの[レポート]→[使用状況]→[Microsoft 365 アプリ]の[アクティブなユーザー]タブで、ユーザーごとに Exchange や Teams を最後に使った日と、ライセンスの割り当てを確かめられます(ユーザー名は初期設定では伏せて表示されます。Microsoft Learn)。
ステップ2。一覧表に並べる(ここでAIが活躍する)
集めた情報を、1枚の表に並べます。この表づくりこそ、AIが一番役に立つ場面です。請求書や明細から書き出したツール名・用途・金額を、ChatGPTやClaude、Geminiなど会社で利用を認めた生成AIに貼り付け、「次の情報を表に整理して。列はツール名・用途・月額・契約形態・利用者数」と指示するだけで、バラバラだった情報がきれいな一覧に整います。
ただし、ここで絶対に守ってほしいルールがあります。AIに渡していいのは「ツール名・用途・概算金額」など、漏れても致命傷にならない情報だけにすることです。顧客リスト、ログインIDやパスワード、契約書の生データといった機密情報は貼り付けないでください。AIに渡す情報は最小限にとどめる、というのが鉄則です。入力した内容がAIの学習に使われるかどうかも、サービスとプランで変わります。OpenAIは、個人向けのChatGPTでは会話を学習に使う場合があり設定で止められること、ChatGPT Businessなど法人向けのプランは初期設定で学習に使わないことをヘルプで説明しています。AI活用の前提となる社内ルールについてはAIに入力してはいけない個人情報と社内ルールの作り方の記事でも詳しく解説しているので、あわせて読んでみてください。
ステップ3。重複と「実は使っていない」を見つける
表ができたら、AIに「この一覧の中で機能が重複しているツールと、利用者数が少ないツールを指摘して」と聞いてみましょう。チャットツール、オンラインストレージ、タスク管理、Web会議。このあたりは部署ごとにバラバラに契約されていることが多く、AIに見比べてもらうと「実質同じ用途のツールが3つある」といった重複がすぐ浮かび上がります。
判断に迷ったとき用に、削減候補かどうかを見分けるチェックリストを用意しました。1つでも当てはまれば、解約や統合を検討する価値があります。
- 90日以上ログインがない:誰も使っていない可能性が高い。利用者に確認のうえ解約候補
- 機能が他のツールと8割かぶっている:どちらかに寄せれば、片方の月額がまるごと浮く
- 契約上限より実際の利用者がずっと少ない:プランのダウングレードで支払いを減らせる
- 契約者が退職・異動している:誰も管理していない「幽霊契約」。セキュリティ上も危険
- 無料版で足りる使い方しかしていない:有料の機能を一度も使っていないなら見直し対象
ステップ4。捨てる前に現場へ一声かける
削減候補が出たら、すぐ解約せず、必ず使っていそうな部署に一声かけます。「このツール、来月解約しようと思うけど困る人いますか」と聞くだけです。この一手間を飛ばすと、「実は毎月の請求書発行に使っていた」といった隠れた利用が後から噴出し、信頼を失います。解約するかどうかは社内で決める、という原則をここでも守ってください。
ステップ5。ルールを決めて「また増える」を防ぐ
最後に、SaaS契約の見直しを一度きりで終わらせないための仕組みを作ります。新しくSaaSを契約するときは情シスに申請する、AIツールは会社が承認したものを使う、といった簡単な運用ルールを決めておくだけで、半年後にまた散らかるのを防げます。このルールの叩き台も、AIに「中小企業向けのSaaS利用申請ルールの草案を作って」と頼めば、たたき台が数分で出てきます。あとは自社に合わせて手直しするだけです。
もし手作業の表づくりに限界を感じたら、SaaS管理に特化したツールという選択肢もあります。ただし、SaaS管理ツールの導入は次の段階です。まずは会社で利用を認めた生成AIと表計算ソフトで手を動かしてみるのが近道です。
SaaS契約の見直しでどこまで効果が出るか。コスト削減と運用の変化

では、実際にSaaS契約を見直すとどれくらい効果があるのか。気になりますよね。ここでは期待できる変化を、なるべく具体的にお伝えします。
まずコスト面です。削減額は、契約しているツールの数と、使われていない席の数で決まります。たとえば1ユーザー月1,500円のツールで、使っていない席が20あれば、それだけで月3万円です。自社の一覧表で、重複ツールと使われていないアカウントの月額を合計すると、削減できる金額の見込みが出ます。
次に、情シス自身の手間を減らすことにもつながります。ヘルプデスクの一次対応をAIに任せる仕組み(FAQ自動化)を検討するなら、契約の洗い出しで作った「どのツールを誰が使っているか」の一覧は、こうしたFAQ自動化の土台にもなります。社内の情報を横断的に検索できる仕組みづくりは社内情報のAI図書館(RAG活用)の記事でも掘り下げているので参考にしてください。
SaaS契約の見直しは「コスト削減」だけで終わらせず、浮いた予算と時間を、本当に必要なツールや、業務をシステム化する取り組みに回すと考えてください。ムダを削るのはゴールではなく、次の一手のための原資づくりです。この発想の切り替えができると、社内での説得もぐっと楽になります。
数字の見せ方がカギ。経営層に報告するときは「ツールを3つ解約しました」ではなく「年間◯◯万円の固定費を削減し、その分を◯◯に回せます」と、お金の流れで語ると一気に伝わります。
よくある失敗と回避法

ここからは、起こりやすい失敗を紹介します。先に知っておくだけで、同じ落とし穴を避けられます。代表的なものを4つ取り上げます。
失敗1。契約を洗い出さずにAIへ丸投げする
1つ目は、何も準備せずにAIへ「うちのSaaS、整理して」と聞いてしまうパターンです。AIは自社の契約状況を知りませんから、当たり障りのない一般論しか返ってきません。結果、「それっぽいけど役に立たない答え」をもらって満足してしまい、肝心のムダは1円も削れません。回避法はシンプルで、先に人が請求書や管理画面から情報を集め、その実データをAIに渡すことです。AIは0から答えを作る道具ではなく、こちらが集めた材料を一覧表にまとめる道具だと考えてください。
失敗2。機密情報をAIに貼ってしまう
作業を急ぐあまり、契約書のPDFをまるごとAIに貼ったり、顧客情報が含まれた明細をそのまま投げたりするのも危険な失敗です。社外のAIサービスに入力した情報が、どう扱われるか分からないまま外に出てしまうリスクがあります。回避法は、AIに渡す情報を「ツール名・用途・概算金額」に限定すること。漏れても困らない情報だけを使い、心配な場合は社員名やID部分を消してから貼る、というひと手間をルール化しておくと安心です。
失敗3。AIの判断を鵜呑みにして解約する
AIが「このツールは使われていないので解約候補です」と言ったから、確認せずに解約してしまう。これも痛い失敗です。AIは利用ログの数字だけを見て判断しているので、「月1回だが決算期に絶対必要」といった文脈までは分かりません。AIの判断はあくまで「候補出し」と割り切り、最終的に捨てるかどうかは、使っている部署に確認したうえで人が決める。この一手間が、業務を止めない最大の防御策です。
失敗4。情シスだけで進めて現場に嫌われる
管理部門が良かれと思って勝手にツールを統合した結果、現場から「使い慣れたものを取り上げられた」と反発される。コスト削減は正しくても、進め方を間違えると協力が得られなくなります。回避法は、契約を洗い出す段階から現場を巻き込むこと。「このツール、最近使ってますか」と聞いて回れば、現場は「自分たちの意見を聞いてくれた」と感じ、解約に納得してもらいやすくなります。AIで効率化できるのは作業であって、社内の調整は自社で行う仕事だと心得ておきましょう。
落とし穴と、正直な妥協点
ここまで手順を紹介してきましたが、教科書通りにいかない部分も正直にお伝えします。ここを知っておくかどうかで、SaaS契約の見直しが続くか、途中で挫折するかが分かれます。
まず、SaaS管理ツールを入れれば全部自動で解決する、という期待は持ちすぎないほうがいいです。確かに便利ですが、ツールが正しく動くには「どのカードでどのツールを契約しているか」といった初期設定を人が入れる必要があり、結局その下準備が一番大変だったりします。管理ツールの月額が削減額を上回ることもあるため、導入前に比べてください。社員数が数十名規模なら、まずは表計算ソフトと、会社で利用を認めた生成AIで始められます。
もうひとつ、見落とされがちなのが「年契約のタイミング」です。月単位で解約できると思っていたら年契約で、解約を申し出ても次の更新月まで料金が発生し続ける。契約を洗い出して削減候補を見つけても、すぐにはお金が浮かないケースは珍しくありません。だからこそ、各ツールの契約更新月を一覧にメモしておき、更新の1〜2か月前に判断する、というスケジュール管理が地味に効いてきます。
そして一番難しいのが、シャドーITやシャドーAIへの向き合い方です。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書(組織編)は、経営者層の対策に、未許可のAIサービスの利用の禁止と、個人アカウントでの業務利用の制限を挙げ、会社としてAIサービスの利用を検討することも挙げています。未許可のツールは禁止したうえで、現場が使いたいツールを申請し、会社が承認して契約する流れを用意することが大切です。申請の窓口があれば、現場が使いたいツールを情シスが把握できます。
SaaS契約の見直しは、一度やれば終わりではありません。契約は放っておくとまた増えます。半年に一度は同じ手順で見直す前提で、最初から「繰り返せる仕組み」として設計しておくのが、長い目で見て一番ラクです。ここを軽く見ると、1年後にまた同じ作業をゼロからやり直すことになります。
こうした「どこまで自分たちでやって、どこからツールやプロに頼るか」の線引きは、会社の規模や体制によって本当に変わります。判断に迷ったら、全体像を整理する考え方としてAIシステム化の成功ロードマップの記事も役に立つはずです。
よくある質問
SaaS契約の見直しは情シスが1人でも本当にできますか
できます。社員数が数十名規模なら、請求書とカード明細を集め、生成AIで一覧表にまとめるだけで大半は進みます。完璧を目指さず、まず一覧化から始めるのがコツです。
どのAIツールを使えばいいですか
ChatGPT、Claude、Geminiなど、会社で利用を認めた生成AIで十分です。表の整理や重複の洗い出しは、どれも問題なくこなせます。専用のSaaS管理ツールは、ツール数が多くて手作業が限界になってから検討すれば大丈夫です。
機密情報をAIに入れてしまうのが不安です
その不安は正しいです。AIに渡すのは「ツール名・用途・概算金額」だけにして、顧客情報やパスワード、契約書の生データは入れないでください。漏れても困らない情報に限定する、というルールを最初に決めておきます。あわせて、入力した内容がAIの学習に使われる設定になっていないかを、使うサービスとプランごとに確かめてください。
解約したいのに年契約で減らせません。どうすれば
各ツールの更新月を一覧にメモし、更新の1〜2か月前に解約判断をするのがおすすめです。今すぐ減らせなくても、次の更新で確実に止められます。来期の予算計画に「削減予定額」として織り込んでおくと社内も動かしやすいです。
まとめ。まずは1枚の一覧表から始めよう
SaaSのムダ削りは、特別な知識がなくても「集める・並べる・捨てる」の3ステップから始められます。AIは並べる作業と候補出しを高速化してくれる相棒で、最終判断は自社で行います。この線引きを守れば、情シス1人でも月額のムダを減らせます。まずは請求書を並べて、1枚の一覧表を作るところから始めてください。
とはいえ、ここまで読んで「SaaS契約の見直しの先にある仕組み化まで一気にやりたい」「自社だけで線引きを判断するのは難しそう」と感じた方もいると思います。そんなときは、コレットラボのAI導入支援・DX支援にご相談ください。改善したい業務と目指す状態を伺い、最初に試すテーマを一緒に検討したうえで、弊社がシステムを設計・開発します。対象の業務や作るシステムが決まる前から、ご相談いただけます。
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