AI導入は何から始めるか|中小企業が最初の1業務を選ぶ採点表
この記事の要点
- 最初の1業務は、毎週あり社内向けで、担当者が5分で確かめられる作業
- 一番時間がかかる業務は例外の対応を含むことが多く、最初の1業務には向かない場合がある
- 5項目の採点表と2週間の記録表で、続けるかを数字で判断
AI導入は、会社全体の計画づくりからではなく、社内の業務を1つだけ選んで試すところから始めます。選ぶのは、毎週必ず発生し、社内向けで、担当者が5分ほどで出来の良し悪しを確かめられる作業です。社内の定例会議の議事録が、この条件に当てはまりやすい業務です。
社員10〜50人ほどで、AIに詳しい社員がいないまま「そろそろ何か始めなければ」と考えている経営者・総務・広報の方に向けた記事です。読み終わる頃には、自社の業務から最初の1つを点数で選び、2週間の試し方まで決められる状態を目指します。
ツールの比べ方や社内ルールの作り方はこの記事では深く扱わず、途中で関連記事へご案内します。
Contents / 目次
最初の1業務は「毎週ある・社内向け・5分で確かめられる」作業
最初に選ぶ業務は、次の3つの条件をすべて満たすものです。1つでも欠けると、効果が数字で見えないか、誤りが社外に出るか、確認の手間で時間が減らないかのどれかになります。
| 条件 | この条件が要る理由 | 当てはまりやすい業務 | 当てはまりにくい業務 |
|---|---|---|---|
| 毎週必ず発生する | 2週間で何度も試せるので、1回の出来に左右されずに比べられる | 議事録、日報のまとめ、定型メールの返信 | 年1回の事業計画書、半年に1回の採用 |
| できたものが社内向け | AIの誤りがあっても、社外に出る前に止められる | 社内会議の記録、社内向けの手順書 | お客さまへの見積書、契約書 |
| 担当者が5分ほどで確かめられる | 確認の時間が、短縮できた時間を上回らない | 要点の抜けを見るだけの要約、決まった形式の文章 | 専門家の判断が要る書類、根拠を1つずつ調べる調査 |
ここで言うAI導入とは、ChatGPT・Claude・Geminiのような生成AI(指示に応じて文章などを作るAI)を業務の一部に組み込み、決まった手順で社員が使える状態にすることです。高額なシステム開発や、全社一斉の導入を指しているわけではありません。
よく言われる「一番時間がかかっている業務から始める」は、この3条件で見ると当てはまらないことがあります。時間がかかる業務は、例外の対応や社外への提出を含むことが多いためです。理由と防ぎ方は、後の「選び違える条件」の章で扱います。
業務を選ぶ前に、誰が担当し、どこまでをAIに任せるかも決めておく必要があります。決める項目はAI導入の失敗原因と導入前に決める5項目の確認表で解説しています。
最初の1業務を選んで2週間試す5ステップ
最初の1業務は、書き出し→採点→材料の準備→2週間の記録→判断、の5ステップで決めて試します。特別なツールは要らず、表計算ソフトと、普段使っている生成AIがあれば進められます。
ステップ1 候補業務の書き出し表
まず、部署の担当者2〜3人に集まってもらい、15分で候補の業務を5〜10個書き出します。1人で考えると自分の担当業務に偏るため、別の部署の方にも入ってもらうのが効果的です。
書き出すときは、次の6列の表にします。この列がそのまま、ステップ2の採点に使えます。
| 業務名 | 担当 | 頻度 | 1回の時間 | 材料の形 | できたものの行き先 |
|---|---|---|---|---|---|
| 例 定例会議の議事録 | 総務Aさん | 週2回 | 40分 | 録音とメモ | 社内 |
| 例 問い合わせへの返信 | 営業Bさん | ほぼ毎日 | 20分 | メール | 社外(確認後に送信) |
1日の作業を細かく分けてから候補を探したい場合は、事務の1日を分解して任せる作業を決める進め方が参考になります。
ステップ2 5項目の採点表で1業務に絞り込み
書き出した候補を、次の5項目で0〜2点ずつ採点します。合計7点以上で、かつ0点の項目が1つもない業務を、最初の1業務の候補にします。
| 項目 | 0点 | 1点 | 2点 |
|---|---|---|---|
| 頻度 | 週1回未満 | 週1〜4回 | ほぼ毎日 |
| 1回の時間 | 10分未満 | 10〜30分 | 30分以上 |
| 材料がデジタルか | 紙・口頭だけ | 一部がデジタル | メール・ファイル・録音でそろう |
| 確かめやすさ | 良し悪しを判断できる社員がいない、または確認に30分以上かかる | 確認に5分を超え30分未満かかる | 担当者が5分以内で確かめられる |
| 誤りの影響 | 金額や契約に関わり、社外に出る | 社外に出るが、送る前に確認できる | 社内だけで使う |
仮に社員15人の会社で採点すると、次のようになります。
| 候補 | 頻度 | 時間 | 材料 | 確認 | 影響 | 合計と判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 見積書の作成(1回60分) | 1 | 2 | 1 | 1 | 0 | 5点。影響が0点なので対象外 |
| 定例会議の議事録(1回40分) | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 | 9点。第1候補 |
| 社内からの質問への回答の下書き(1回20分) | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | 8点。第2候補 |
| 日報の集計(1回15分) | 2 | 1 | 0 | 2 | 2 | 7点。材料が紙なので、先にデジタル化 |
| 求人票の作成(1回45分) | 0 | 2 | 1 | 2 | 1 | 6点。頻度が0点なので対象外 |
この例では、一番時間がかかっている見積書(1回60分)ではなく、議事録が最初の1業務になります。第2候補も残しておくと、議事録がうまくいかなかったときにすぐ変更できます。
ステップ3 AIに渡す材料と確認箇所の決め方
AIの出来は、渡す材料で大きく変わります。渡すのは、過去の完成例2〜3件と、今回の元になるメモや録音の文字起こしです。完成例があると、AIは形式や言い回しをそれに合わせやすくなります。
指示文は、次のような短いたたき台で十分です。あとはAIとやり取りしながら、自社の業務に合わせて修正してください。
あなたは[業種を入力]の会社で[業務名を入力]を担当するアシスタントです。
次のメモから[作るもの:議事録/返信メールの下書き など]を作ってください。
・形式は、下に貼る過去の完成例に合わせる
・メモに無い情報は足さず、その箇所に「要確認」と書く
・最後に、自信のない箇所を箇条書きで挙げる
[過去の完成例を2〜3件貼る]
[今回のメモを貼る]
出てきたものは、次の3点に絞って確認します。確認する箇所を先に決めておくと、ステップ2で見込んだ「5分」に収まりやすくなります。
- 固有名詞・数字・日付:人名、社名、金額、期日がメモと一致しているか
- メモに無い内容:AIが話の流れから推測して書き足した文がないか
- 「要確認」の箇所:AIが自信がないと挙げた箇所を、元のメモで確かめたか
もう1つ、試行を始める前に、AIに入力してよい情報と入力しない情報を決めておきます。顧客の氏名や取引金額を含む業務を選んだ場合は特に必要です。
決め方は生成AI社内ルールの12項目のひな形で解説しています。社員がすでに個人でAIを使い始めていて、入力してよい情報がまだ決まっていない場合は、経営者と社員で考えるAI活用研修で、入力した情報の扱われ方を経営者と社員が一緒に学び、試す業務を話し合う進め方もあります。
ステップ4 確認時間まで含めた2週間の記録
試行期間は2週間とし、AIを使う前と使った後の時間を、確認の時間まで含めて記録します。AIが下書きを作る時間だけを測ると、確認や修正にかかった時間が抜け、効果を大きく見積もってしまいます。
| 日付 | AIの利用 | 作業時間 | 確認・修正の時間 | 修正した箇所 |
|---|---|---|---|---|
| 例 10/6 | なし | 40分 | ー | ー |
| 例 10/8 | あり | 10分 | 5分 | 人名2か所、決定事項の抜け1か所 |
仮に、議事録が週2回・1回40分だった場合、AIの下書きと確認で1回15分になれば、週50分の短縮です。1か月を4週として計算すると、月に約3.3時間(50分×4週=200分)の短縮になります。この数字を月ごとに記録しておけば、次の業務に広げるかどうかを、経営者が数字で判断できます。測り方の詳細はAI業務効率化の削減時間の測り方にまとめています。
ステップ5 続ける・変える・やめるの判断基準
2週間の記録がそろったら、次の基準で判断します。基準は例なので、自社の事情に合わせて数字を変えてかまいません。
- 続ける:確認込みの時間が、AIを使う前より3割以上減っている。修正した箇所が回を追うごとに減っている
- 変える:修正が毎回同じ箇所に出ている。渡す材料(完成例やメモの書き方)を変えて、もう2週間試す
- やめる:確認と修正の時間が、AIを使わずに作業した時間を超えた回が半分以上ある。採点表の第2候補に変更する
続けると決めたら、渡す材料・指示文・確認する3点を手順書に書き出し、担当者以外の社員1人に同じ手順で使ってもらいます。その社員が同じ時間で終えられれば、ほかの部署に広げられる状態です。
この章の結論。最初の1業務は、採点表で「7点以上・0点なし」を選び、確認時間まで含めた2週間の記録で続けるかを決めます。
最初の1業務を選び違える4つの条件
最初の1業務でつまずく原因は、AIの性能だけでなく業務の選び方にもあります。次の4つの条件に当てはまる業務は、最初の1つにしないほうが安全です。
一番時間がかかる業務を選ぶと、例外の多さで試行が止まる
見積書のように時間がかかる業務は、案件ごとに条件が違い、例外の対応が多く含まれます。AIの下書きを毎回大きく修正することになり、2週間たっても時間が減らず、「AIは使えない」という印象だけが社内に広がります。
防ぐには、時間の長さではなく採点表の合計点で選びます。時間のかかる業務は、最初の1業務で手順書の作り方を身につけた後に取り組みます。
材料が紙や口頭の業務を選ぶと、AIの前に入力の手間が増える
手書きの日報や電話で受けた注文のように、材料が紙や口頭だけの業務では、AIに渡す前に誰かが文字を打ち込む必要があります。入力の手間が増えるぶん、全体の作業時間はむしろ長くなります。
この場合は、AIの前に材料をデジタルにする工程を分けて考えます。日報ならフォームへの入力に変える、電話なら通話メモをその場で入力する、といった変更を先に済ませてから、AIの試行に入ります。
社外に出る文章を最初に選ぶと、確認が1人に集中する
お客さまへのメールや提案書を最初の1業務にすると、誤りが社外に出ないよう、責任者が毎回すべてを確認することになります。確認が1人に集中して試行が続かず、1回の誤送信で社内の評価も下がります。
社外に出る文章を扱う場合は、採点表の「誤りの影響」が1点になる形、つまり送る前に必ず担当者が確認する運用にします。できれば社内向けの業務で2週間試し、確認のコツをつかんでから取り組むのが確実です。
最初から業務全体をAIエージェントに任せると、誤りの場所を追えない
AIエージェントとは、指示を受けて複数の作業を自分で順番に進めるAIのことです。メールを読み、表に転記し、返信まで送るといった業務全体を最初から任せると、結果がおかしかったときに、どの工程で誤ったのかを追えません。
最初は「下書きを作る」のような1工程だけをAIに任せ、確認は社内で行います。手順書ができ、確認する箇所がはっきりしてから、工程を1つずつ自動化の対象に加えます。試行から本番運用に進むときの壁についてはPoCが本番化しない理由と全社展開までの5ステップで解説しています。
この章の結論。候補が採点表で高得点でも、例外が多い・材料が紙・社外に出る・全工程を任せる、のどれかに当てはまるなら、最初の1業務から外します。
自社で進める範囲と外部に依頼する範囲
候補の書き出しから2週間の試行までは、社内で進められます。外部に依頼したほうが早いのは、試行で効果が見えた後、ほかの社員にも使える形にする段階です。
| 作業 | 自社で進めやすい条件 | 外部に依頼したほうが早い条件 |
|---|---|---|
| 候補の書き出しと採点 | 各部署から15分ずつ時間を取れる | 部署をまたいで業務を聞き取る担当がいない |
| 2週間の試行と記録 | 担当者1人が記録を続けられる | 記録の取り方と続けるかの基準を社内で決められない |
| 社員が使う入力フォームと手順書 | 試行した担当者が書き出せる | 日常業務と並行して作る時間が取れない |
| 複数のツールをまたぐ自動化 | ノーコードツールを触ったことがある社員がいる | メール・表計算・基幹システムなど3つ以上をつなぐ |
外部に依頼する場合は、見積もりの段階で次の4点を確かめます。
- 対象業務:「AI活用全般」ではなく、1つの業務名で書かれているか
- 役割の分け方:AIが行う作業と、社内で確かめる作業の境目が示されているか
- 月々の費用:AIツールの利用料が、制作費とは別にかかるかどうか
- 納品後の更新:業務が変わったとき、手順書を誰が更新するか
試行で効果が見えた業務を社内に広げたいものの、手順書づくりの時間が取れない場合は、AI導入支援・DX支援をご相談ください。仕組みにしたい1業務が決まっていれば、AIに任せる処理と担当者が確認する内容を決め、弊社が設計・開発します。支援会社の種類ごとの違いはAI導入支援の会社の違いと比較表で比べられます。
費用面では、中小企業庁のサイト「ミラサポplus」に、中小企業庁の担当者が「デジタル化・AI導入補助金」を解説した記事があります。この補助金は、令和7年度補正予算から「IT導入補助金」の名称が変わったものです。記事では、補助金の枠と申請の流れに加えて、自社に合うツールを選ぶための診断ツールや相談先も紹介されています。補助の対象は、IT導入支援事業者が事前に事務局の審査を受けて登録したITツールで、申請もIT導入支援事業者と共同で行います。コレットラボはIT導入支援事業者に登録していないため、弊社の支援にこの補助金は使えません。金額・要件・締切は年度ごとに変わり、同じ年度の中でも公募の回によって要件が変わることがあります。事務局は2026年10月9日に、第7次公募から申請要件の一部を変えると発表しています。申請の前に、デジタル化・AI導入補助金の公式サイトで最新の公募要領を確認してください。
公的な相談先として中小企業基盤整備機構(中小機構)の支援メニューもあります。
補助金で購入するツールを前提に計画を組むと、申請から結果が出るまでの間、業務選びと試行が止まります。採点と2週間の試行は、補助金を待たずに今あるツールで進められます。
最初の1業務選びでよくある質問
議事録を最初の1業務にするのはありですか?
会議が週1回以上あり、録音してよい会議であれば向いています。録音する場合は、参加者に先に伝えて了承を得てください。
社員が個人のChatGPTで作業しています。それを最初の1業務にしてもいいですか?
候補として有力です。使い方の感触がすでにあるためです。ただし、個人のアカウントに顧客名や取引の情報を入れていないかを先に確認します。そのうえで入力してよい情報を決め、会社の試行として2週間の記録を取り直してください。
最初の1業務の試行に、無料版のAIを使ってもいいですか?
入力する情報によります。入力した内容がAIの学習に使われるかどうかは、サービスやプラン、設定によって変わり、改定されることもあります。試行を始める前に、使うサービスの公式ヘルプとプライバシーポリシーで、学習の扱いと設定の変え方を確かめてください。
社内会議のメモにも、人事・取引先・未公開の計画など社外に出せない情報が入ることがあります。学習の扱いを確かめたうえで、メモの中身を見てから入力してください。
顧客名や見積金額を入れる業務なら、入力内容を学習に使わない設定や管理機能がある法人向けプランを先に確認します。違いはAIの法人プランと個人プランの違いで解説しています。
2週間試して時間が減らなかったら、AIは自社に向いていないのでしょうか?
そう判断するのは早いです。まず修正した箇所の記録を見て、渡した材料が足りなかったのか、業務そのものに例外が多かったのかを分けます。材料が原因なら完成例を足してもう2週間試し、業務が原因なら採点表の第2候補に変更します。
今日できる最初の一歩と相談先
まずは今日、ご自身の1週間の予定表を見返し、毎週必ず発生している作業を5つ書き出してみてください。それで、ステップ1の表の半分が埋まります。最初の1業務が決まった後、社内で使う社員を増やしていく段階では、AI推進担当を3か月で立てる手順が次の一歩になります。
ここまで読んで、業務の書き出しや採点は進められそうでも、試行の後にほかの社員も使える形にするところまで手が回らないと感じた方は、AI導入支援・DX支援について、お気軽にお問い合わせください。どの業務から始めるか決まっていなくてもかまいません。初回のご相談では、いまの業務の状況を伺い、最初に試す業務の候補と進め方を一緒に考えます。業務を詳しく洗い出したいなど、ご希望の場合は初回のご相談で伺います。
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