介護のAI活用|厚生労働省の支援策と外部に依頼する作業
この記事の要点
- 介護のAI活用は、見守り・記録・文書の下書き・送迎とシフトの4つの型
- 機器と介護ソフトの補助は、都道府県の介護テクノロジー導入支援事業が窓口
- 依頼する作業と施設に残す判断は作業ごとの表で分け、依頼先には契約前に8項目を確かめる
介護のAI活用は、見守りセンサー、音声入力による介護記録、生成AIでの文書の下書き、送迎ルートと勤務表の作成の4つの型で進められています。厚生労働省は、都道府県を通じた介護テクノロジーの導入支援と、2024年度の介護報酬改定でできた生産性向上推進体制加算などで、機器や介護ソフトの導入を後押ししています。加算の内容や都道府県の総合窓口の一覧は、厚生労働省の介護分野における生産性向上ポータルサイトで確かめられます。
ただし、補助の対象になる機器、上限額、募集の時期は都道府県ごとに違い、補助率も事業と年度で変わります。利用者の記録をAIにどこまで入力してよいかは、個人情報保護委員会の注意喚起とガイダンスを踏まえて、施設が規程で決める必要があります。
この記事は、施設長や法人の経営者で、外部にどこまで依頼するかを判断したい方に向けて書いています。読み終わる頃には、支援策の確かめ方、依頼する作業と施設に残す判断、契約前に確認する質問が分かる状態を目指します。
Contents / 目次
介護のAI活用事例は4つの型。最初の型で支援策と依頼先が変わる
介護のAI活用は、何を任せるかで4つの型に分かれ、型ごとに使える国の支援と依頼先が違います。先に型を決めると、見積もりを取る相手と、確かめる公募要領が絞れます。
| 型 | AIが行うこと | 最終確認する職員 | 国の支援との関係 | 主な依頼先 |
|---|---|---|---|---|
| 見守り・安全 | センサーやカメラで離床・転倒の兆候を知らせる | 夜勤の介護職員 | 介護テクノロジー導入支援事業、生産性向上推進体制加算 | 機器メーカー・販売代理店 |
| 介護記録 | 会話や口頭の報告を文字にし、記録の文にする | 記録した職員とフロアリーダー | 介護テクノロジー導入支援事業(介護ソフト) | 介護ソフト会社 |
| 文書の下書き | 申し送り、会議の議事録、家族へのお便り、ケアプラン原案の下書き | 書類の作成責任者(ケアマネジャーなど) | 汎用の生成AIが補助の対象かは公募要領で確認 | AI導入支援・研修の会社 |
| 送迎・シフト | 送迎ルートや勤務表の案を作る | 生活相談員・管理者 | 対象になるかは公募要領で確認 | 送迎・勤務管理システムの会社 |
どの型から始めるかは、職員の負担がどこに集中しているかで決めます。記録の残業が多いなら記録、夜間の巡視の負担が重いなら見守りです。生成AIでの文書の下書きは機器を買わずに試せる一方、利用者の情報をどこまで入力するかを先に決めないと始められません。
業務を1つに絞る手順は、最初の1業務を選ぶ採点表で詳しく解説しています。
この章の結論。4つの型のどれから始めるかを決めれば、確かめる支援策と見積もりを取る相手が決まります。
厚生労働省の介護AI活用の支援策と、申請前の4ステップ
厚生労働省の主な支援には、補助金・介護報酬の加算・相談窓口・ガイドラインがあります。補助金と相談窓口は都道府県が運営しているため、最新の条件は都道府県のページと公募要領で確かめます。加算と相談窓口の一覧は、厚生労働省の介護分野における生産性向上ポータルサイトに掲載されています。
| 支援策 | 中身 | 確かめること |
|---|---|---|
| 介護テクノロジー導入支援事業 | 都道府県が、介護ロボット、見守り機器、介護ソフト、タブレット端末などの導入経費を補助する。財源は地域医療介護総合確保基金で、令和8年度は令和7年度補正予算による介護テクノロジー定着支援事業(事業者の負担は1/5)もある。主な対象は、厚生労働省の「介護テクノロジー利用の重点分野」に当たる機器と介護ソフト(厚生労働省の介護テクノロジー導入・定着支援関連資料、令和7年度補正予算案の概要(老健局関係)) | 今年度の募集時期と締切(令和8年度分は、宮城県のように8月に受付を終えた県もある。終わっていれば次の募集の予定)、事業の名前、対象機器、補助率と上限、交付決定前の発注の扱い。事業の名前と年度は毎年変わるため、都道府県の公式ページで必ず確かめる |
| 生産性向上推進体制加算 | 介護報酬の加算で、(I)と(II)の2区分がある。区分ごとの要件は表のあとに示す。令和8年6月からは、施設サービス等では、この加算の取得と実績の報告が、処遇改善加算の上乗せの区分を取るための特例要件の1つになっている(3つの要件のうち1つを満たせばよい)(厚生労働省の令和8年度介護報酬改定について) | 自施設のサービスが対象か、区分ごとの要件、報告するデータの項目(厚生労働省のポータルサイトの加算のページで確かめる) |
| 介護生産性向上総合相談センター | 都道府県ごとの、生産性向上の相談窓口 | 自分の都道府県の窓口の名称と相談の方法(ポータルサイトの総合窓口の一覧で確かめる) |
| 生産性向上ガイドライン | 業務の見える化から改善までの進め方を示した厚生労働省の手引き。令和6年度の改訂で、全サービスの共通冊子と、施設・居宅・医療系のサービス別冊子に分かれた | 共通冊子と、自施設のサービスに合うサービス別冊子(厚生労働省の介護分野における生産性向上のお知らせのページに掲載) |
生産性向上推進体制加算の区分ごとの要件は次のとおりです。要件と様式は、厚生労働省の令和6年度介護報酬改定についてに掲載された「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」で確かめます。
- (II):委員会で利用者の安全対策や職員の負担軽減の方策を検討し、見守り機器などを1つ以上導入して業務改善を続け、1年以内ごとに1回、業務改善の効果を示すデータを提出する
- (I):(II)の要件に加えて、提出したデータで成果が確認されていること、見守り機器などを複数導入していること、職員間の役割分担の見直しに取り組んでいること
ステップ1。対象の業務の時間を2週間記録する
最初に、AIに任せたい業務に今どれだけ時間がかかっているかを2週間記録します。生産性向上推進体制加算では実績データの報告が求められ、補助の申請でも導入の効果の見込みを書く欄があることがあるため、導入前の数字が必要です。
- 記録する項目:日付、勤務帯(日勤・夜勤)、業務名、かかった分数、記録した職員
- 対象の例:夜勤帯の巡視、記録の入力、申し送りの作成
- 記録の注意点:忙しい日だけ抜けないよう、勤務の終わりに1行だけ書く形にする
ステップ2。都道府県に補助の対象を問い合わせる
見積もりを取る前に、都道府県の担当課か相談センターに対象を確かめます。補助金では、交付決定の前に発注した経費を対象外とする定めが置かれることがあるため、契約の時期も一緒に問い合わせます。
件名:介護テクノロジーの導入補助の対象についての確認
[法人名][事業所名・サービス種別]の[氏名]です。
導入を検討している内容は次のとおりです。
・機器/ソフト:[製品名・型番]
・あわせて必要な工事:[居室までのWi-Fi工事など]
次の4点を教えてください。
1. 今年度の募集時期と締切(終わっている場合は次の募集の予定)
2. 上記が補助の対象になるか、補助率と上限
3. 交付決定の前に見積もり・契約・発注をしてよいか
4. 導入後に求められる報告の内容と時期
ステップ3。委員会で入力する情報と確認役を決める
AIに入力してよい情報と、AIの出力を確認する職員を、委員会で決めて文書にします。生産性向上推進体制加算の委員会を開いている施設なら、その議題に加えられます。線引きの中身は次の章で示します。
職員が個人のスマートフォンで生成AIを使い始めていて、入力してよい情報がまだ決まっていない場合は、経営者と職員が一緒に学ぶ120分のAI研修で、情報の扱い方を先に決める進め方もあります。
ステップ4。補助の対象と対象外を分けた見積もりを取る
見積もりは、補助の対象になる費目と、ならない費目を分けて出してもらいます。補助の額は対象になる経費から計算するため、費目が分かれていれば、申請する金額を見積書と照らして確かめられます。依頼先に確認する質問は、後の章のリストを使ってください。
この章の結論。業務の時間を測り、都道府県に対象を問い合わせてから見積もりを取る順番にすれば、補助の対象外の発注を避けられます。
利用者の個人情報と介護記録をAIに入力するときの線引き
利用者の氏名など本人が分かる情報は、汎用の生成AIに入力しないのが原則です。介護記録には、病歴や障害の事実など、個人情報保護法の要配慮個人情報に当たる情報が多く含まれるためです。個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスも、介護関係記録に記載された病歴などを、要配慮個人情報の例に挙げています。
個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起(生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について)で、事業者に次のように求めています。「個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」。
介護事業者の取り扱いの基本は、個人情報保護委員会と厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」で確かめられます。
| 区分 | 情報の例 | 条件 |
|---|---|---|
| 入力しない | 氏名、住所、電話番号、被保険者番号、顔写真、家族の連絡先 | 汎用の生成AIには入力しない |
| 条件付き | 氏名を「Aさん」に置き換えた状態の記録や申し送り | 4つの条件をすべて満たす場合だけ入力する(条件は表のあとに示す) |
| 入力してよい | 行事のお知らせ、求人原稿、研修資料、マニュアルの下書き | 利用者の情報を含めない |
条件付きの区分で入力するのは、次の4つをすべて満たす場合だけです。どの条件で入力できるかは、個人情報保護委員会の注意喚起とガイダンスに照らして判断します。
- 利用目的:入力が、特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを確かめている
- 学習の扱い:法人向けの契約で、入力内容がAIの学習に使われない設定になっている
- サービス提供者との契約:入力した情報の保存・削除などの扱いを契約で定めている
- 施設の規程:入力してよい情報と、AIの出力を確認する職員を規程に定めている
氏名を消しても安心はできません。入所日、居室番号、珍しい疾患名、家族構成が並ぶと、施設の職員や家族には誰のことか分かります。条件付きの区分で使うときは、日付と居室番号も消すと決めておきます。
介護ソフトに組み込まれたAIを使う場合は、汎用の生成AIとは確認する点が変わります。データの保存先、AIの学習に使うかどうか、委託先としての安全管理を、契約書と利用規約で確かめます。個人向けと法人向けのプランの違いはAIの法人プランと個人プランの違いで解説しています。
この章の結論。本人が分かる情報は入力しない、置き換えた記録は利用目的・契約・規程の条件を満たす場合だけ、という2本の線を引けば、職員が迷わず使えます。
外部に依頼する作業と施設に残す判断。費用が変わる要素と契約前の確認
外部に依頼できるのは、機器の設置、ソフトの設定、職員研修、運用の見直しの支援です。ケアの方針、ケアプランの内容、利用者や家族への説明は施設に残ります。
自社で行う作業と依頼する作業
| 作業 | 施設で行う | 依頼できる |
|---|---|---|
| 対象の業務を決める | 最終の決定 | 業務の時間の測り方と候補の比較 |
| 機器・通信環境 | 設置する居室の決定 | 設置工事、Wi-Fiの調査と工事 |
| 入力する情報の線引き | 委員会での決定と規程 | 規程のひな形の作成 |
| 職員研修 | 受講する職員と勤務の調整 | 研修の実施、手順書の作成 |
| AIの出力の確認 | ケアマネジャー・リーダーによる確認 | 確認項目の一覧の作成 |
生成AIで文書の下書きを作る仕組みを、職員が使う入力フォームと手順書まで含めて任せたい場合は、AIに任せる業務の洗い出しの相談から始める進め方もあります。
介護のAI導入で費用が変わる要素
費用は、製品の価格よりも、施設の条件で大きく変わります。金額の幅を比べる前に、次の要素が見積もりに入っているかを並べて比べます。
- 事業所数と居室数:見守り機器は台数で費用が増える
- 通信環境の工事:居室や浴室までWi-Fiが届かない建物では別に工事が要る
- 既存の介護ソフトとの連携:記録を取り込む設定に追加の費用がかかることがある
- 研修の回数と勤務帯:夜勤の職員向けに別の日程を組むと回数が増える
- 月額と保守:月額やクラウドの利用料が補助の対象に入るかは、都道府県の公募要領で確かめる
伴走支援と研修の費用の違いはAI導入の伴走支援の費用と見積もり内訳で解説しています。
契約前に確認する質問
契約の前に、依頼先へ次の8項目を確認し、回答を書面でもらいます。
- 利用者のデータの保存先と、AIの学習に使うかどうか
- 既存の介護ソフトに記録を取り込めるか、取り込む形式
- 通信環境の工事が見積もりに入っているか
- 夜勤の職員向けの研修を組めるか、回数
- 補助の対象になる費目と、ならない費目を分けた見積もりを出せるか
- 月額と保守の費用、契約の更新時に変わるか
- 解約するときのデータの返却形式と削除の方法
- 夜間の不具合の連絡先と対応時間
この章の結論。施設に残すのはケアの判断と情報の線引き、依頼するのは設置・設定・研修です。8項目の回答を並べれば、見積もりの差が何の差か分かります。
介護のAI活用がうまくいかない4つの条件
介護のAI活用は、建物の通信環境、夜勤の運用、記録の流れ、補助の手続きの4か所でつまずきやすくなります。どれも導入前に確かめられます。
居室までWi-Fiが届かないまま機器を買う
事務所だけにWi-Fiがある建物で見守り機器やタブレットを入れると、居室で通知が届かず、記録も入力できません。機器の見積もりの前に、居室・浴室・廊下の端で電波を測り、工事が要るなら同じ申請に含められるかを都道府県に確かめます。
見守りの通知の条件を決めずに使い始める
すべての利用者に同じ条件で通知を出すと、夜勤の職員が通知に追われ、確認しなくなります。利用者ごとに通知する動き(起き上がり・離床など)を決め、委員会で月1回、通知の回数と駆けつけた件数を見て条件を変えます。
音声入力の記録が介護ソフトに入らない
音声で作った記録の文を介護ソフトに転記する工程が残ると、入力が2回になり、職員の負担は減りません。契約前の確認の2番目で、取り込みの形式と手順を実際の記録で試してから決めます。
交付決定の前に発注する
年度内に導入したいと急いで発注すると、補助の対象外になることがあります。発注日、契約日、納品日を公募要領の条件と照らし、交付決定の通知を受けてから契約する日程にします。
この章の結論。電波・通知の条件・記録の取り込み・発注の日付の4点を契約前に確かめておくと、導入後に使われなくなる原因を減らせます。
介護のAI活用でよくある質問
生成AIが作ったケアプラン原案は、そのまま使っていいですか?
そのままは使えません。ケアプランの内容に責任を持つのはケアマネジャーで、AIの原案は下書きです。利用者の状態や本人と家族の意向に合っているかを確認して修正し、説明と同意の手続きはこれまでどおり行います。
ChatGPTなどの月額料金は、介護テクノロジー導入支援事業の対象になりますか?
都道府県の公募要領しだいです。この事業は見守り機器や介護ソフトなどの導入を想定しており、汎用の生成AIの月額が対象になるかは、都道府県の公募要領で確かめる必要があります。申請前に担当課へ製品名を示して問い合わせてください。
訪問介護の小さな事業所でも、厚生労働省の支援策は使えますか?
生産性向上推進体制加算は使えません。この加算の対象は、介護老人福祉施設や介護老人保健施設、短期入所、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護などで、訪問介護は含まれていません。対象のサービスは、厚生労働省の令和6年度介護報酬改定についてに掲載された資料で確かめられます。
訪問介護の事業所も、都道府県の介護テクノロジー導入支援事業の対象に入ります。厚生労働省の介護テクノロジー導入・定着支援関連資料では、訪問介護などの在宅系の事業所は、ケアプランデータ連携システムの利用を始めることが補助の要件に入っています。このほか、ホームヘルパーの同行支援などを補助する訪問介護等サービス提供体制確保支援事業もあります(厚生労働省の令和7年度補正予算案の概要(老健局関係))。どちらも要件と募集の時期は年度と都道府県で変わるため、自事業所の都道府県の公募要領で必ず確かめてください。
職員のAI研修に、人材開発支援助成金は使えますか?
内容によります。助成金の対象になる訓練の要件は改正で変わることがあり、生成AIの使い方を学ぶ訓練が対象になるかは訓練の中身しだいです。計画を立てる前に、最新の要件に合うかを労働局で確かめてください。
今日できる最初の一歩は、記録・巡視・申し送りのうち、職員の残業がいちばん多い業務を1つ選び、明日から2週間かかった分数を書き留めることです。依頼先の提案書を比べる段階になったら、AI導入提案書の読み解き方もあわせて読んでみてください。
ここまで読んで、業務の選び方や情報の線引きを施設だけで決めるのは難しいと感じた方は、今の業務の流れを伺うところから始めませんか。AI導入支援・DX支援では、AIに任せる業務を一緒に洗い出し、職員が使う手順書まで作ります。気になることがあれば、気軽にご相談ください。
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