不動産会社のAI活用|物件紹介文と追客で試す5業務と外部に依頼する作業
この記事の要点
- 最初に試すのは物件紹介文・図面の読み取り・反響返信の下書き
- AIが書いた広告文は、公開前に7項目の確認表で点検する
- 顧客の情報は3区分に分け、AIに入れる項目を先に決める
不動産会社がAIで最初に試すなら、物件資料(紹介文・図面からの情報入力)と追客(反響メールの返信と追客文の下書き)が向いています。どちらも文章と定型の入力が中心で、AIが下書きを作り、担当者が確認してから外に出す流れを作りやすいためです。
ただし、広告の文は宅地建物取引業法と「不動産の表示に関する公正競争規約」、顧客の情報は個人情報保護法に照らして確かめる必要があります。この確認の手順を決めずに始めると、公開や送信の前で毎回止まります。
売買・賃貸の仲介や管理を行う会社で、AIの導入を外部に依頼するか検討している経営者・役員の方に向けた記事です。特定の会社の導入事例は紹介せず、公開されている事例を自社に当てはめるときの確認点と、自社で試す業務の候補・手順を示します。
読み終わる頃には、どの業務から試し、何を外部に依頼し、契約前に何を確かめるかを決められる状態を目指します。AI査定や重要事項説明書の専用サービスの比較は扱いません。
Contents / 目次
不動産のAI活用。物件資料と追客で最初に試す5つの業務
物件資料と追客で試しやすいのは、次の5業務です。共通点は、AIが下書きを作り、担当者が確認してから公開・送信できることです。
| 業務 | AIに任せる作業 | 担当者が確認する作業 | 照らして確かめる決まり |
|---|---|---|---|
| 物件紹介文(ポータル・自社サイト) | 販売図面・設備表から紹介文の下書き | 数値・用語・表現の点検 | 宅建業法第32条(誇大広告等の禁止)、公正競争規約 |
| 図面からの情報入力 | 所在地・面積・間取り・設備の読み取り | 原本との読み合わせ | 宅建業法第32条(誇大広告等の禁止)、公正競争規約 |
| 反響メールへの一次返信 | 問い合わせ内容に合わせた返信の下書き | 物件がまだ募集中か、価格・条件 | 公正競争規約(おとり広告) |
| 追客メール・LINEの文面 | 希望条件に合う物件の案内文の下書き | 送る相手、将来の利便の書き方 | 宅建業法第47条の2 |
| 内見・商談の記録 | 録音からの要約、次の対応の抜き出し | 顧客の発言の聞き違い | 個人情報保護法(利用目的) |
AI査定、重要事項説明書、契約書の作成支援にもAIは使えます。ただ、重要事項の説明は宅地建物取引士が行うもので(宅建業法第35条)、誤りが契約に直結します。最初の1業務より、確認の流れが社内で回り始めてからのほうが安全です。
公開されている不動産のAI活用事例を自社に当てはめるときの4つの確認
業界団体や各社が公開しているAI活用事例を読み、自社に当てはめるときは、事例の数字より次の4点を確かめます。
- 対象の業務が同じか:賃貸の反響対応と売買の追客では、件数も文面の型も違います
- 削減時間の測り方:1件あたりか月の合計か、担当者の確認時間を含んでいるか
- 誰が確認しているか:宅建士や営業の責任者が確認する工程が残っているか
- 自社の件数で回収できるか:月の紹介文の作成数や反響件数が、事例の会社と同じ桁か
どの業務から始めるかの採点のしかたは、AI導入で最初の1業務を選ぶ採点表で解説しています。
営業担当者が個人のAIアカウントで紹介文を作り始めていて、顧客の情報をどこまで入れてよいか社内で決まっていない場合は、経営者と社員で考えるAI活用研修で、情報の扱い方を先に決める進め方もあります。
この章の結論。最初の1業務は、物件紹介文か反響返信の下書きから選び、事例は「業務・測り方・確認者・件数」の4点で自社と比べてから参考にします。
物件紹介文をAIで作る手順と、公開前に確かめる広告の決まり
物件紹介文は、材料を1つの表にまとめて渡し、出力を確認表で点検し、担当者が登録する4つのステップで進めます。AIに任せるのは文章の下書きだけで、数値と表現の判断は担当者が行います。
ステップ1。AIに渡す材料を物件ごとに1つの表にする
AIは渡されていない情報を、それらしく補って書くことがあります。材料を表にして「この表に無いことは書かない」と指示すると、補った文を見つけやすくなります。
- 入れる:所在地(町名まで)、価格または賃料、面積、間取り、築年月、構造、設備、取引態様、駅からの道路距離(自社で測った値)と徒歩分数(その道路距離から担当者が80mにつき1分で計算した値)
- 入れる:担当者が現地で確かめた周辺施設と、その道路距離・徒歩分数
- 入れない:売主・貸主の氏名、売却の事情、価格交渉の経緯
ステップ2。たたき台の指示文で下書きを作る
指示文は長く作り込む必要はありません。次のたたき台から始め、出力を見ながら自社の書き方に合わせて条件を足してください。
あなたは不動産会社の広告担当です。
次の物件情報の表だけを使って、ポータルサイト用の紹介文を300字以内で書いてください。
守る条件
- 表に無い情報(周辺施設、眺望、日当たりなど)は書かない
- 「最高」「格安」「掘出物」「完全」などの言葉は使わない
- 徒歩分数は表の値をそのまま使い、計算し直さない
- 将来の開発や値上がりについては書かない
- 最後に、表から読み取れなかった項目を箇条書きで挙げる
物件情報
[ここに物件ごとの表を貼り付ける]
最後の「読み取れなかった項目」の一覧を見れば、担当者が原本と照らして確かめる項目が分かります。
ステップ3。公開前の確認表で7項目を点検する
AIの出力は、公開前に次の7項目を担当者が確かめます。規約の原文は、不動産公正取引協議会連合会の公正競争規約の紹介のページに掲載されている「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」で確認してください。
- 徒歩所要時間は、道路距離80mにつき1分(1分未満の端数は1分)で計算した値か(施行規則第9条第9号)。地図アプリの徒歩時間をそのまま使っていないか
- 「新築」と書いた物件は、建築工事の完了後1年未満で、まだ居住に使われたことがないものか(規約第18条第1項第1号)
- 「最高」「格安」「掘出物」「完全」など、規約第18条第2項で使い方が決まっている言葉が入っていないか。これらの言葉は、内容を裏付ける資料があり、その根拠となる事実も一緒に書く場合に限って使えます
- 「〇〇万円から〇〇万円に値下げ」のような過去の価格と比べる二重価格の表示は、規約第20条と不動産の表示に関する公正競争規約施行規則第12条の要件を満たしているか。要件は、値下げ前の価格の公表日と値下げした日を書く、比べる価格は値下げの直前の価格で、値下げ前2か月以上にわたり実際に販売のために公表していた価格である、値下げの日から6か月以内の表示である、公表日から表示する日まで物件の価値に同一性が認められる、などです。そのうえで、実際にその期間その価格で販売していたことを資料で示せる必要があります。賃料を比べる二重価格の表示はできません(連合会の改正点のリーフレット)
- 計画中の商業施設や道路を、すでに利用できるもののように書いていないか
- 取引態様(売主・代理・媒介)が書かれているか(宅建業法第34条)
- 成約済み・募集停止の物件が、掲載や送信の対象に残っていないか
ステップ4。AIで加工した写真は実物との差を確かめる
空室の写真にAIで家具を配置するバーチャルステージングを名指しした規定は、公正競争規約と施行規則にはありません。近い規定として、施行規則第9条第23号は、建物のコンピュータグラフィックスを使うときはその旨を明示するよう定めています。規約第23条第1項第42号・第43号は、写真やコンピュータグラフィックスで物件の規模・形状・構造や眺望を事実と違えて表示することや、実際より優良と誤認されるおそれのある表示を禁じています。
家具を合成した画像は、イメージ画像であることを明示して載せます。壁の傷や窓の外の建物を消すなど、実物の状態を変える加工はしません。条文は連合会が公開している不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則で、掲載のルールは掲載先のポータルサイトの規約で、それぞれ確かめてください。
この章の結論。紹介文の作業時間を減らすのはAIでも、徒歩分数や用語の判断は確認表で担当者が行います。確認表を作ってから試すと、公開前で止まりません。
追客にAIを使うときの個人情報の線引きと文面の作り方
追客にAIを使う前に、顧客の情報を3区分に分け、AIに入れる項目を決めます。送信は、物件の募集状況を確かめた担当者が行います。
| 区分 | 例 | AIへの入力 |
|---|---|---|
| 入れてよい | 物件情報、希望エリア・間取り・予算の幅 | 会社が契約した法人向けプランで入力する |
| 本人が分かる記述を消してから入れる | 問い合わせの本文、内見時の質問 | 氏名・電話番号・メールアドレスに加え、勤務先・家族構成・現住所など本人が分かる記述もすべて消す。消しきれない文は入力しない |
| 入れない | 年収・勤務先、ローン審査の情報、本人確認書類、家族の事情 | 入力しない |
個人情報保護委員会は2023年6月の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、次の2点を示しています。
- 個人情報を含む指示文を入力するときは、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめること
- 本人の同意を得ずに個人データを含む指示文を入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性があること。そのため、AIサービスの提供会社が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確かめること
上の3区分は委員会が示した区分ではありません。この注意喚起を踏まえて、社内で入力の可否を決めるためのたたき台です。
入力を学習に使うかどうかは、AIサービスとプラン、設定で変わります。契約前に、各サービスの公式の規約やヘルプで確かめてください(例:ChatGPTの法人向けプランはOpenAIのエンタープライズ向けプライバシーのページ)。違いはAIの法人プランと個人プランの違いで、入力してはいけない情報の決め方はAIに入力してはいけない個人情報の線引きで解説しています。
追客メールの下書きを作る流れ
- 顧客管理の台帳から、希望条件と直近のやり取りの要点を取り出し、氏名と連絡先を外す
- 当日に募集状況を更新した物件一覧と一緒にAIに渡し、案内文の下書きを作る
- 担当者が、案内した物件の募集状況・価格・条件を台帳と照合する
- 宛名を入れ、担当者が送信する
追客メールをAIに自動送信させない理由
成約済みの物件を案内すると、取引できない物件で集客する「おとり広告」と受け取られかねません。将来の環境や交通の利便について、誤解させるような断定的な判断を伝えることも宅建業法第47条の2と施行規則で禁じられており、「近く新駅ができるので必ず便利になります」のような文をAIが書くことがあります。
ホームページにAIチャットボットを置いて24時間対応する場合も、空室・価格・契約条件には答えさせず、「担当者が確認してご連絡します」で止める設計にします。
この章の結論。追客は「3区分で入力を決める」「当日更新の一覧だけを渡す」「担当者が照合して送る」の3つがそろってから試します。
外部に依頼する作業と、費用が変わる条件・契約前の確認
外部に依頼するのに向くのは、業務の洗い出し、指示文と確認表の作成、社内の手順書づくりです。公開・送信の最終確認と、件数・時間の記録は自社に残します。
自社で行う作業と依頼する作業
- 自社で行う作業:試す業務を1つ決める、公開・送信前の最終確認(宅建士・担当者)、確認表の更新、作成件数と時間の記録
- 依頼する作業:業務の洗い出しと順番の検討、情報区分のルール文書、確認表を組み込んだ指示文、社員が使う入力フォームと手順書、定着の振り返り
物件資料と追客のどちらから試すか、社内に何を残すかを外部と一緒に決めたい場合は、AIに任せる業務の洗い出しの相談から、入力フォームと手順書づくり、定着の伴走までご相談いただけます。
AI導入の費用が変わる5つの条件
| 条件 | 費用が上がる方向 | 費用を抑える方向 |
|---|---|---|
| 対象の業務の数 | 物件資料・追客・契約書類を同時に始める | 1業務から始める |
| 既存システムとの連携 | 物件管理・顧客管理システムと自動でつなぐ | 表の貼り付けで運用する |
| AIのプランと人数 | 全営業担当者分のライセンスを先に契約する | 試す担当者だけで始める |
| 個人情報を扱う設計 | 顧客情報を入れる仕組みを作る | 氏名を外した情報だけで運用する |
| 研修・定着支援の回数 | 月ごとの振り返りを長く続ける | 手順書の作成までにする |
見積書には出ない費用もあります。
- 担当者の確認時間
- 確認表の更新
- AIのライセンスの月額
仮に紹介文1件の作成が30分から確認込みで15分になり、月40件作るなら、減るのは月10時間です。この時間を人件費に換算し、月額の費用と比べると回収の見通しが立ちます。見積もりの内訳はAI導入の伴走支援の費用と研修との違いで解説しています。
契約前に確認する6つの質問
- 入力した顧客の情報は、どのサービスのどの契約で処理され、学習に使われない設定になっているか
- 広告の確認表(宅建業法・公正競争規約)を誰が作り、規約が改正されたときに誰が更新するか
- 物件管理・顧客管理システムとの連携は、見積もりに含まれているか
- 成果の測り方(1件あたりの作成時間、確認時間を含むか)を契約前に決めるか
- 支援が終わったあと、指示文・手順書・設定を自社で変更できるか。AIのアカウントの所有者は自社か
- 不動産向けの専用サービスを勧められた場合、汎用のAIとの違いと、解約時のデータの扱いはどうなるか
提案書の見方は経営者が契約前に見るAI導入提案書の5つの視点も参考になります。
この章の結論。依頼するのは仕組みづくり、自社に残すのは最終確認と記録です。6つの質問の答えが曖昧な提案は、契約前に書面で回答を求めます。
うまくいかない条件。不動産会社のAI活用が止まる3つの型
不動産会社のAI活用は、物件の募集状況、距離の表示、個人アカウントの3か所で止まりやすくなります。前の2つは不動産の広告に特有の問題で、3つ目の個人アカウントの問題はどの業種でも起こります。
物件台帳の更新が遅れたまま追客文を作ると、成約済みの物件を案内する
台帳の募集状況を週に1回しか更新していない会社が、AIで追客文を毎日作ると、成約済みの物件を含んだ案内が届きます。顧客からは取引できない物件で誘われたように見えます。追客文を作る日の朝に台帳を更新し、AIに渡すのは当日更新した一覧だけにします。
地図アプリやAIが出した徒歩分数をそのまま広告に載せる
地図アプリの徒歩時間や、AIが住所から推測した距離は、規約の算出方法(道路距離80mにつき1分)と合わないことがあります。担当者が測った道路距離と、そこから計算した徒歩分数を材料の表に入れ、AIには計算させません。
営業担当者が個人のAIアカウントに問い合わせ文を貼る
会社がAIの使い方を決めないまま営業担当者が個人のアカウントを使うと、どの顧客の情報が入力されたかを会社が把握できません。
IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織編の3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が入りました。
会社が法人向けプランを用意し、個人アカウントでの業務利用を禁止したうえで、情報区分の表を配ります。進め方はシャドーAI対策のルール化手順で解説しています。
この章の結論。台帳の更新日、距離の測り方、使うアカウントの3つを決めてから始めると、公開・送信の前で止まる原因を先に外せます。
不動産のAI活用でよくある質問
AIで作った物件紹介文が規約違反だったら、AIの提供会社の責任になりますか?
AIの提供会社に責任を求められると考えて進めるのは避けてください。AIで作った文でも、広告として出すのは自社です。宅建業法第32条(誇大広告等の禁止)も、宅地建物取引業者が業務に関して広告をするときの決まりです。公開前の確認表による点検と、誰が確認したかの記録を残しておくことが自社を守ることにつながります。
バーチャルステージングの画像をポータルサイトに載せてもいいですか?
公正競争規約には、バーチャルステージングを名指しした規定はありません。ただ、コンピュータグラフィックスはその旨を明示して使うこと(施行規則第9条第23号)、写真やコンピュータグラフィックスで実際より優良と誤認されるおそれのある表示をしないこと(規約第23条第1項第42号)が決まっています。載せる場合は、家具を配置したイメージ画像であることを写真の近くに書き、壁の傷や眺望など実物の状態を変える加工はしません。掲載前に、掲載先のポータルサイトの規約も確かめてください。
重要事項説明書の作成にもAIを使えますか?
下書きや法令上の制限を調べる補助には使えます。ただし内容の確認と記名、説明は宅地建物取引士が行います。誤りが契約に直結するため、紹介文や反響返信でAIの確認の流れが社内で回り始めてから試すほうが安全です。
従業員5人ほどの賃貸仲介の会社でも、外部にAI導入を依頼する意味はありますか?
月の反響件数と紹介文の作成数しだいです。まず1か月、件数と1件あたりの時間を記録してください。減らせる時間が少なければ、社員研修だけ受けて社内で試す方法もあります。件数が多く、確認表や手順書を作る時間が無い場合に外部への依頼が向きます。
まずは、先月作った物件紹介文の件数と、1件にかかったおおよその時間を書き出してみてください。依頼する場合の見積もりの読み方は、AI導入の伴走支援の費用の内訳で確かめられます。
ここまで読んで、確認表や情報区分の決まりまで社内で作り切るのは難しいと感じた方は、AI導入支援・DX支援をご覧ください。いまの業務の流れを伺い、物件資料と追客のどちらからAIに任せるかを一緒に決めるところからお手伝いします。
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