契約書のAIチェックは違法か|弁護士法の線引きと社長の確認点
この記事の要点
- 法務省の線引きは報酬・事件性・鑑定・利用者の4点
- 取引先の契約を見る・紛争後の書面は弁護士に回す
- 入力前に伏せる情報と確認の5手順を本文に掲載
法務省のガイドラインで弁護士法第72条との関係が問題になるのは、主にサービスを提供する側が、報酬を得て、紛争のある案件について、個別の法的判断を示す場合です。社長が注意したいのは、取引先や顧客の契約書を代わりに確認するときと、紛争が起きた後の合意書・和解書にAIを使うときです。
自分の会社の契約確認にAIを使えるか試そうとしている経営者・役員の方に向けた記事です。読み終わる頃には、社内で試してよい契約と弁護士に回す契約を分け、AIに入力する前に伏せる情報を決められる状態を目指します。プロンプトの文例を中心に知りたい方は契約書をAIでチェックするプロンプト例と注意点を先にご覧ください。
Contents / 目次
契約書のAIチェックが違法になる線引きと法務省ガイドライン
線引きの一次資料は、法務省大臣官房司法法制部が2023年8月に公表した「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」です。2026年8月には、これを補完するガイドライン「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」も公表されました。どちらも法務省の「弁護士法(その他)」のページに、概要とあわせて掲載されています。
弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件などの法律事件に関して鑑定・代理・和解などの法律事務を取り扱うことや、その周旋を業とすることを禁じる条文です(e-Gov法令検索の弁護士法)。いわゆる「非弁行為」の禁止で、違反には同法第77条の罰則(2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)があります。
2023年のガイドラインは冒頭で、同条の解釈・適用は「最終的には裁判所の判断に委ねられるものである」と断ったうえで、一般論としての考え方を示しています。
ガイドラインは「報酬を得る目的」「訴訟事件…その他一般の法律事件」(いわゆる事件性)「鑑定…その他の法律事務」のいずれかに当たらなければ同条に違反せず、3つとも当たる場合でも、利用者が弁護士である一定の場合は通常違反しない、という組み立てです。判断の対象は、主にサービスを提供する事業者です。
| 要件 | 該当し得る例(ガイドライン) | 通常は該当しない例(ガイドライン) |
|---|---|---|
| 報酬を得る目的 | 無料に見えても、自社の有償サービスの契約へ誘導する/会費やサブスクリプション料を払った人だけに提供する | 利用料など一切の利益供与を受けずに提供する |
| 事件性 | 取引先との紛争が生じた後に、裁判外で解決する和解契約等を作る | 親子会社・グループ会社間の慣行の取引や、基本契約に基づき従前同様の物品を調達する契約 |
| 鑑定その他の法律事務(審査の場合) | 個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度を表示する/経緯や背景事情を法的に処理した具体的な修正案を表示する | 登録済みのひな形との相違部分を、字句の意味内容と無関係に表示する/チェックリストに紐付いた一般的な解説を個別の修正なしに表示する |
| 利用者 | ― | 弁護士が結果も踏まえて自ら精査し、必要に応じて自ら修正する/利用する会社が当事者の契約について、その会社の職員・役員である弁護士が同等の方法で使う |
2026年のガイドライン概要(2ページ「一般的なAI等法務業務支援サービスへの具体的当てはめ」)では、書面作成・審査・管理業務の支援は、サービスが「事件性」のある案件での利用を目指した設計でなく、そうした利用に特化した機能も持たず、利用者による不適切な利用を避ける体制を整備している場合に「一般的に弁護士法第72条に抵触しないと考えられる」とされています。
一方で、同じページでは、訴状など裁判所への提出書面や、和解契約書など法的紛議を前提とした対外使用書面の作成に係るサービスが、「事件性」のある案件に関して「鑑定…その他の法律事務」を取り扱ったと評価され得る例に挙がっています。
この章の結論。弁護士法第72条が禁じているのは、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、紛争のある案件について法律上の鑑定などの法律事務を取り扱うことを業とすることです。社長が見るべきは、自社がその「提供する側」に回っていないかと、紛争後の書面を弁護士に依頼しているかの2点です。
社長が確認する4つの場面と弁護士法
経営者が判断に迷うのは、次の4つの場面です。自社の使い方がどれに当たるかを先に決めておくと、AIに任せてよい作業が決まります。
自社が当事者の契約を自社で確かめる場合
自社が結ぶ契約を、自社の担当者がAIで読んで論点を洗い出す使い方です。2023年のガイドラインは、企業法務で扱う通常の業務に伴う契約の話合いや法的問題点の検討について、多くの場合「事件性」がないとの当局の指摘に留意しつつ判断すべきとしています。この場面で先に問題になるのは、弁護士法よりも情報の扱いと、AIの誤りを見落とすことです。
担当者が個人のAIアカウントで契約書を読ませ始めていて、入力してよい情報がまだ決まっていない場合は、経営者と社員で考えるAI活用研修で、入力した情報がどう扱われるかと、契約・設定・社内ルールのどこを確かめるかを先に学ぶ進め方もあります。
取引先や顧客の契約書を代わりに確認する場合
「AIで見ておきますよ」と取引先の契約書を引き受け、指摘や修正案を返す行為は、AIを使うかどうかに関係なく、他人の契約について法的な見解を示す行為です。報酬を得る目的があるか(無料に見えても、自社の有償サービスにつながる場合を含む)、紛争が絡むか、業として行うかによっては、弁護士法第72条に触れるおそれがあります。
法務省のガイドラインはAIサービスを提供する事業者向けの考え方なので、この場面にはそのまま当てはまりません。コンサルティングや事務代行の会社が付帯サービスとして始めやすい形です。始める前に、弁護士に自社の提供形態を説明して相談してください。
紛争が起きた後の合意書・和解書を作る場合
代金の未払いや納期遅れで揉めた後に、裁判外で解決するために結ぶ合意書(和解契約書)は、2023年のガイドラインが「事件性」が認められる例として挙げる場面です。AIの修正案は相手との交渉の経緯を知らないまま作られるので、相手方に送る文面の判断は弁護士に依頼します。
契約書AIレビューのサービスを選ぶ場合
専用サービスを使うなら、提供会社が弁護士法第72条との関係をどう説明しているか、利用規約で紛争案件での利用をどう扱っているかを契約前に確かめます。2026年のガイドラインは、提供者に、利用者による不適切な利用を避ける体制を整備することを推奨しています。説明を確認できないサービスは、比較の候補から外して構いません。
この章の結論。自社の通常の契約は社内で試せます。取引先の契約を代わりに確認する計画と、紛争後の書面は、AIを使う前に弁護士に相談します。
契約書のAIチェックの進め方5ステップ
社内で試すときは、AIを「論点を洗い出す係」にして、判断は担当者と弁護士が行う流れにします。次の5つの手順で進めます。
ステップ1。契約を3つに仕分ける
AIに入れる前に、契約書をどの確認先に回すかを決めます。基準は会社ごとに変えてよく、次の表を出発点にしてください。
| 区分 | 当てはまる契約の例 | 確認する人 |
|---|---|---|
| AIの一次確認+担当者 | 自社ひな形を使う継続取引、条件が前回と同じ更新契約 | 担当者・決裁者 |
| AIの一次確認+弁護士 | 初めての取引先、損害賠償の上限が無い、知的財産の譲渡、競業禁止・独占条項、英文契約 | 担当者・弁護士 |
| 最初から弁護士 | 紛争後の合意書・和解書、内容証明への回答、取引先や顧客から確認を依頼された契約 | 弁護士 |
ステップ2。入力前に伏せる情報を決める
契約書は相手方の情報を含みます。秘密保持契約(NDA)を結んでいる相手なら、その秘密情報をAIサービスに入力することが、開示先や目的外使用の制限に触れないかを先に確かめます。
- 相手方の社名・担当者名:「乙」「担当者A」に置き換える
- 金額・単価:「金額A」にする。金額の妥当性はAIに判断させない
- 個人情報:署名欄、連絡先、従業員名は削る
- 製品の仕様や技術情報:別紙ごと外す
- 利用するプラン:入力が学習に使われない法人向けプランか、設定で止めているか
個人向けの ChatGPT や Claude は、設定画面で入力内容をモデルの学習に使うかどうかを切り替えられます(OpenAIのData controls in ChatGPT、AnthropicのIs my data used for model training?)。設定の項目名や設定画面での位置は変わることがあるため、使う前にこれらの公式ヘルプで現在の設定方法を確かめてください。プランごとの違いはAIの法人プランと個人プランの違いで比べています。
ステップ3。結論ではなく論点を出させる
AIには「この契約は問題ないか」と聞かず、確認が必要な条項と、弁護士への質問を挙げさせます。次の文を出発点に、自社の状況に合わせてAIとやり取りしながら詰めてください。
あなたは契約書の論点を洗い出すアシスタントです。結論は出さず、確認が必要な点を挙げてください。
前提
- 当社の立場:[委託者/受託者、売主/買主など]
- 取引の内容:[例:Webサイトの保守を月額で委託する]
- 当社が譲れない条件:[例:月末締め翌月末払い、損害賠償の上限は委託料の◯か月分]
依頼
1. 当社に不利になり得る条項を挙げ、条番号と原文をそのまま引用する
2. 次の条項の有無を確認し、無ければ「記載なし」と書く。損害賠償の上限、契約解除、再委託、秘密保持の期間、知的財産の帰属、準拠法と管轄、反社会的勢力の排除
3. 法令名を挙げるときは正式名称と条番号を書き、確信がなければ「要確認」と付ける
4. 弁護士に確認すべき点を、質問文の形で5つまで
出力は表にする。列は「条番号/原文の引用/気になる点/確認先(担当者・弁護士)」
ステップ4。出てきた指摘を3点で確かめる
- 引用された原文と条番号が、元の契約書に実在するか照合する(AIが条文を言い換えたり、条番号をずらしたりすることがある)
- 挙がった法令名と条番号を、e-Gov法令検索で現行の条文と照らす
- 「記載なし」と出た条項が本当に無いか、別紙や基本契約も含めて担当者が読む
ステップ5。誰が何を確かめたかを記録する
契約ごとに、確認日・担当者・使ったAIサービス・弁護士に相談したかを1行残します。あとから「AIが問題ないと言ったから締結した」という説明にならないよう、判断した人の名前を残すのが目的です。
この章の結論。AIに出させるのは条文の引用と質問のリストまでです。照合と判断は担当者と弁護士が行い、その記録を契約ごとに残します。
契約書のAIチェックで起きる失敗と防ぎ方
契約書の確認にAIを使うと、次の4つの失敗が起きやすくなります。どれも、AIの出力をそのまま判断材料にしたときに起きます。
「大きな問題はありません」を承認の根拠にする
AIは書かれた条文を読むので、損害賠償の上限や解除の条件のように「書かれていない条項」は、指示しないと指摘から漏れることがあります。上限の無い損害賠償を抱えたまま締結する原因になります。ステップ3の依頼文のように、確認したい条項の一覧を毎回渡して有無を答えさせます。
改正前の法令名のまま指摘を受け取る
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は改正され、2026年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)になりました(公正取引委員会の取適法のページ)。
AIが古い法令名や改正前の内容で説明しても、文章としては自然なので気づきにくいのが難点です。法令名が出た指摘は、e-Gov法令検索で現行の条文を確かめてから使います。AIの誤りが起きる仕組みは生成AIのハルシネーションを業務で減らす手順で解説しています。
取引先から依頼された契約書をAIで確認して返す
付き合いのある取引先に「AIで見てもらえないか」と依頼され、指摘と修正案を返す形です。AIを使うかどうかに関係なく、他社の契約について法的な見解を示す行為です。報酬の有無や紛争が絡むかなどの事情によっては、弁護士法第72条に触れるおそれがあります。断るか、弁護士を紹介する対応にします。
NDAの相手の秘密情報を個人アカウントに貼る
相手の技術資料や価格表を含む契約書を、担当者が個人のアカウントに貼ると、NDAの開示制限に触れる可能性があり、会社はその入力を把握できません。会社が認めたプランを用意し、個人アカウントでの業務利用を禁じる規程と一緒に運用します。線引きの決め方はChatGPT業務利用のリスクと取引先情報・NDAの線引きで詳しく扱っています。
この章の結論。失敗は「欠けている条項の見落とし」「古い法令」「他社の契約を扱う」「情報の持ち出し」の4つです。それぞれの対策を、次のように決めておきます。
- 欠けている条項の見落とし:依頼文に確認する条項の一覧を入れる
- 古い法令:法令名を現行の条文で確かめる
- 他社の契約を扱う:取引先や顧客の契約を引き受けない
- 情報の持ち出し:会社が認めたプランだけを使う
自社で試す業務と、会社として仕組みにする業務
最初は社長や法務担当が自分の契約で試し、社員にも広げるときに、流れと記録の形を決めます。
| 項目 | 社長が自分で試す | 会社として仕組みにする |
|---|---|---|
| 対象の契約 | 自社ひな形の継続取引を数件 | 3区分の基準を決め、全契約を仕分ける |
| 入力する情報 | 伏せる情報を自分で消す | 伏せる項目を規程にし、法人向けプランに限る |
| 依頼文 | ステップ3の文を自分で調整 | 契約類型ごとに確認する条項の一覧を固定する |
| 記録 | メモで十分 | 確認日・担当者・弁護士相談の有無を一覧で残す |
記録が残っていれば、導入前後で弁護士への相談件数や締結までの日数を比べられます。毎月くり返す業務にするときに、AIに任せる作業と担当者が確かめる作業の分担、入力フォームと社員向けの手順書まで決めたい場合は、AI導入支援・DX支援にご相談いただけます。契約書の一次確認を対象にする場合は、初回のご相談で業務の内容を伺います。法務の最終判断をAIだけで行う仕組みは対象外のため、法的な判断そのものは顧問弁護士にご依頼ください。
よくある質問
無料版のChatGPTに自社の契約書を貼るだけでも、弁護士法違反になりますか?
法務省のガイドラインが検討しているのは、主にサービスを提供する側です。自社の契約を自社で確かめる場面で先に問題になるのは、相手方の情報を入力することと、学習への利用の設定です。個別の事情で判断が分かれるので、不安があれば弁護士に確認してください。
AIが出した修正案を、そのまま相手方に送ってもいいですか?
送る前に、担当者が自社の条件と照らし、重要な契約は弁護士に確認します。AIは交渉の経緯や相手との関係を知らずに文を作ります。紛争後の合意書のように対外的に使う書面は、最初から弁護士に依頼してください。
契約書AIレビューの有料サービスなら、弁護士法の心配はいりませんか?
有料かどうかでは決まりません。提供会社が弁護士法第72条との関係をどう説明しているか、紛争案件での利用を規約でどう扱っているかを契約前に確かめます。そのうえで、出てきた指摘を判断するのは自社の担当者と弁護士です。
英文の契約書もAIでチェックして大丈夫ですか?
論点の洗い出しには使えますが、準拠法が外国法になっている契約は、日本法の感覚で読んだ指摘が当てはまらないことがあります。翻訳した文で判断せず、原文の条番号で弁護士に質問を渡す使い方にとどめてください。
今日できる最初の一歩は、直近3か月に締結した契約書を書き出し、紛争後の書面と、取引先から依頼されて確認した契約に印を付けることです。印が付いた契約があれば、AIより先に弁護士への相談から始めます。社内のAI利用ルールを決めるなら、続けて生成AI社内ルールのサンプルと情報区分表もご覧ください。
契約書の確認をAIで効率化したいものの、どの契約から試し、誰が何を確かめるかを社内で決めきれない場合は、お話を伺うところから始めましょう。AI導入支援・DX支援の相談で、契約確認の業務の状況を伺い、AIに任せる作業の候補と進め方をご相談します。
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