広告のコンバージョン単価の決め方|CPAを粗利と受注率で逆算
この記事の要点
- 目標CPAは、1件あたりの粗利額×受注率で出す「限界CPA」から逆算して決める
- 計算に要る数字は4つ。受注単価・粗利率・商談化率・受注率
- 受注件数が少ないうちは受注率が月ごとに大きくぶれる。対処の手順を本文で解説
広告のコンバージョン単価(CPA)は、「1件あたりの粗利額 × 受注率」で出した限界CPAから、残したい利益を引いて決めます。同業他社の相場や、広告管理画面に出ている実績値から決めるものではありません。
この記事は、Web広告からの問い合わせがすでに月に数件〜数十件あって、「1件いくらまでなら出していいのか」を自分で決めたい方に向けて書いています。読み終わる頃には、自社の受注単価・粗利率・受注率を入れれば目標CPAが出る計算表を持ち帰れて、その数字を広告の入札設定に反映するところまで進める状態を目指します。
扱うのは「1件あたりいくらまで出せるか」だけです。月にいくら使うかという月額予算の決め方はBtoB広告の予算設計と逆算の4ステップで、使ったお金が何倍になって返ってきたかという回収率はROASの計算方法と指標の見方で解説しています。3つは別の数字なので、混ぜないでください。
Contents / 目次
広告のコンバージョン単価は粗利額×受注率で逆算する
結論から書きます。広告のCPAの決め方は、次の3行で終わります。
- 1件あたりの粗利額を出す(受注単価 × 粗利率)
- 問い合わせ1件が受注になる確率をかけて、限界CPAを出す
- 限界CPAから、広告以外に残しておきたい分を引いて、目標CPAにする
ここで出てくる「CPA」を、社内では違う意味で使っていることがあります。同じ言葉で呼んでいるせいで会話がかみ合わなくなるので、この記事では次のように呼び分けます。呼び方は社内で通じれば何でもかまいませんが、指している中身は分けてください。
| この記事での呼び方 | 何の数字か | この記事での出し方 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| 限界CPA | ここを超えると赤字になる上限 | 1件あたり粗利額 × 受注率 | 絶対に超えてはいけない線を引くとき |
| 目標CPA | 利益を残しながら狙う水準 | 限界CPA × 広告に使ってよい割合 | 運用の目標として社内で共有するとき |
| 実績CPA | 実際にかかっている単価 | 広告費 ÷ コンバージョン数 | 毎週の点検で目標と比べるとき |
| 入札設定に入れる目標値 | 自動入札に目指させる設定値 | 目標CPAをもとに入力する | キャンペーンの入札設定に入れるとき |
限界CPAとは、そのコンバージョン1件を獲得するために出せるお金の上限額のことです。ここを1円でも超えると、案件を取るほど手元のお金が減ります。目標CPAは、その上限からさらに人件費や利益の分を引いた、実際に運用で狙う数字です。
ここが一番の分かれ目。計算に使うのは「売上」ではなく「粗利」です。受注単価60万円の工事を売っていても、原価が36万円なら手元に残るのは24万円。この24万円が計算の出発点になります。売上単価で計算すると、限界CPAが2.5倍に膨らんで、そのとおりに広告を回すと確実に赤字になります。
もうひとつ大事なのが受注率です。受注率とは、広告経由の問い合わせのうち、実際に契約に至った割合のことです。問い合わせが10件来て1件受注なら10%。この10%をかけ忘れて「粗利24万円まで出せる」と考えてしまうと、限界CPAを10倍間違えることになります。
つまり、広告のCPAの決め方でやるべきことは、自社の粗利額と受注率という2つの数字を実データから出すことです。難しいのは計算式ではなく、その2つの数字を用意するところにあります。次の章で、その出し方を順番に見ていきましょう。
広告のCPAの決め方。自社の数字を出す5ステップ
ここからは実際に手を動かします。用意するものは、直近3〜6か月の問い合わせ一覧(日付・経路・その後どうなったか)と、案件ごとの受注金額・原価が分かる資料の2つです。会計ソフトの試算表があれば粗利率はすぐ出ます。
ステップ1 コンバージョンを1つに決めて、混ぜない
最初にやるのは、CPAを計算する対象のコンバージョンを1つに絞ることです。次の4つを合算した1つのCPAで運用すると、数字が意味を持たなくなります。
- フォームからの問い合わせ
- 電話
- 資料ダウンロード
- LINE友だち追加
理由は、受注までの距離が種類ごとに違うからです。距離が違えば、同じ1件でも価値が変わります。
| コンバージョンの種類 | 受注までの距離 | 目標CPAの扱い |
|---|---|---|
| 見積もり依頼・電話 | 近い | 単独で計算する。最優先で最適化 |
| フォームからの問い合わせ | 中間 | 単独で計算する |
| 資料ダウンロード・メルマガ登録 | 遠い | 別のCPAを持つ。同じ枠で比べない |
資料ダウンロードと問い合わせで受注率がどれくらい違うかは、商材や検討期間によって大きく変わるので、自社の実データで数えてください。受注率の違うものをまとめて1つの目標CPAで見ていると、管理画面のCPAは目標どおりでも、その中身が獲得しやすいコンバージョンに偏っていく可能性があります。件数の内訳を見ないかぎり、商談につながる問い合わせが減っていても気づけません。
やることは3つです。
- 主要なコンバージョンを1つ決める
- それ以外は、目標として最適化される対象から外す
- 外した分は参考指標として別に見る
Google広告ヘルプには「[コンバージョン アクション]ページで各コンバージョン アクションの設定を確認、変更できます。」と記載されており、同ページで入札の最適化対象に含めるかどうかを設定できると案内されています(Google広告ヘルプ コンバージョン アクションの設定、2026年8月31日時点)。設定項目の名称と操作手順は画面の変更があるので、実際の操作前に同ヘルプで最新の表記を確認してください。計測タグ側の設定はGA4とGTMでフォーム送信を計測する設定手順にまとめています。
ステップ2 1件あたりの粗利額を出す
次に、受注1件あたりの粗利額を計算します。式は「平均受注単価 × 粗利率」です。
平均受注単価は、直近1年の受注案件の金額を足して件数で割ります。ここで注意したいのが、平均値は大型案件1本に引っ張られることです。年に1回だけ来る1,000万円の案件が混ざっていると、平均が実態からずれます。
- 案件の金額差が2倍以内:平均値を使ってかまいません
- 金額差が5倍以上ある:中央値(金額順に並べたときの真ん中)を使います。平均だと高く出すぎます
- 商材が2種類以上ある:商材ごとにキャンペーンを分けて、それぞれ別の目標CPAを持ちます
粗利率は、決算書の売上総利益 ÷ 売上高で出ます。会計ソフトを使っていれば損益計算書にそのまま載っています。案件ごとに大きく違う業種(受注生産、工事など)は、直近10件くらいの実案件で原価を引いて、その平均を使うほうが実態に合います。
継続課金やリピート商材の場合は、ここで「何か月分の粗利を入れるか」を決めます。生涯価値(LTV)を丸ごと入れたくなりますが、実測できていない期間を入れると限界CPAが実態より大きくなります。安全なのは、解約データから分かっている継続月数の中央値までで区切ることです。3か月しか実績がないのに24か月分の粗利で計算すると、資金繰りが先に苦しくなります。
ステップ3 商談化率と受注率を実データから出す
ここが一番手間のかかる工程で、そして一番大事な工程です。問い合わせ1件が受注になる確率を、感覚ではなく実データから出します。
2段階に分けて数えると精度が上がります。
- 問い合わせ→商談化率。返信が来て、打ち合わせや見積もり提出まで進んだ割合
- 商談→受注率。見積もりを出したうち、実際に発注になった割合
この2つをかけたものが、問い合わせ→受注率です。たとえば商談化率40%、受注率35%なら、0.4 × 0.35 = 14%。問い合わせ7件で1件受注という計算になります。
2段階に分ける理由は、あとで手を打つ場所が分かるからです。商談化率が低いなら広告とLPの言っていることがずれている、受注率が低いなら価格か提案の問題、と切り分けられます。まとめて1つの数字にすると、悪くなったときにどこを直せばいいか分からなくなります。
問い合わせ一覧がスプレッドシートやCSVで手元にあるなら、集計はAIに任せると早いです。表記ゆれを含んだ経路名をまとめる作業は、手作業だと数時間かかるうえに間違えます。次のような短い頼み方を出発点にして、あとは返ってきた表を見ながら詰めていけば十分です。
添付の商談リストから、問い合わせ経路ごとに
「問い合わせ件数・商談化件数・受注件数・受注金額の中央値」の表を作って。
・経路名の表記ゆれ(Google広告/google ads/リスティング など)は同じものとしてまとめる
・受注かどうか判断できない行は「不明」として、件数だけ別に出す
・集計の元にした行数と、除外した行数も書く
[ここに問い合わせ一覧のCSVを添付]
出てきた表は、そのまま信じずに2か所だけ人が確認してください。1つは「不明」に振られた行の中身、もう1つは受注件数の合計が経理の数字と合っているかどうかです。ここが合っていれば、あとの集計はほぼ正確です。AIはCSVの読み込みや表記ゆれの吸収は得意ですが、社内でしか分からない「この案件は広告経由ではなく紹介」といった判断はできません。
ステップ4 限界CPAと目標CPAを計算する
数字がそろったら計算します。スプレッドシートに貼ってそのまま使える形にしました。B列だけ自社の数字に書き換えてください。
# Googleスプレッドシート/Excel に貼って使う計算表
# B1〜B6 に自社の数字を入れると、B8〜B13 が自動で出ます
# 入っている数字は例です。かならず自社の値に置き換えてください
A1: 平均受注単価(円) B1: 600000
A2: 粗利率(%) B2: 40
A3: 問い合わせ->商談化率(%) B3: 40
A4: 商談->受注率(%) B4: 35
A5: 粗利のうち広告に使う上限(%) B5: 50
A6: 1か月に増やしたい受注件数 B6: 3
A8: 1件あたり粗利額 B8: =B1*B2/100
A9: 問い合わせ->受注率 B9: =B3/100*B4/100
A10: 限界CPA B10: =B8*B9
A11: 目標CPA B11: =B10*B5/100
A12: 必要な月間CV件数 B12: =B6/B9
A13: 月予算の目安(円) B13: =B11*B12
この例で計算すると、次の数字が出ます。
- 1件あたり粗利額:24万円(60万円 × 40%)
- 問い合わせ→受注率:14%(40% × 35%)
- 限界CPA:33,600円。これを超えたら赤字
- 目標CPA:16,800円。粗利の半分を人件費と利益に残した水準
- 月予算の目安:約36万円(受注3件に必要な問い合わせ約21件 × 16,800円)
B5の「粗利のうち広告に使う上限」をいくつにするかは、事業の状態で決めます。判断の目安はこうです。
| 会社の状況 | B5の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| まず案件数を増やしたい・新規事業 | 60〜70% | 限界に近づけて件数を取りにいく。ただし資金に余裕があること |
| 利益を確保しながら安定させたい | 40〜50% | 受注率が想定より下ぶれても赤字にならない |
| 納品のキャパシティが埋まりつつある | 20〜30% | 単価の高い案件だけ取りにいく設定になる |
この割合に正解はありません。大事なのは「なぜその割合にしたか」を1行でいいので書き残しておくことです。半年後に成果を振り返るとき、目標CPAが妥当だったのか、それとも設定が甘かったのかを判断できます。
ステップ5 自動入札の目標値として広告に設定する
出した目標CPAを、広告の入札設定に入れます。Google広告では、自動入札の目標値として設定する形になります。
ここで、名称についてひとつ知っておいてください。管理画面や解説記事では「目標コンバージョン単価」「目標CPA」「目標アクション単価」と表記が割れていることがありますが、指しているものは同じ「1件あたりいくらで獲得したいか」という設定値です。メニュー名は画面の更新で変わることがあるので、実際の入力箇所はGoogle広告ヘルプ(目標コンバージョン単価の入札戦略について)で最新の表記を確認してください。入札戦略そのものの選び方はGoogle広告の予算上限と入札戦略の決め方で解説しています。
いきなり目標CPAを入力しないでください。今の実績CPAが25,000円で、計算した目標CPAが16,800円だったとします。Google広告ヘルプには「設定した目標額が低すぎるとコンバージョンにつながるクリックを逃してしまい、合計コンバージョン数が少なくなる可能性があります。」と記載されています(Google広告ヘルプ「目標コンバージョン単価」入札戦略について、2026年8月31日時点)。
この差のまま16,800円を入れると同じことが起きうるので、25,000円→20,000円→16,800円のように何回かに分けて着地させ、コンバージョン数の落ち込みを確認しながら進めます。
1回あたりの刻み幅と間隔に決まった正解はありません。1回下げるごとにコンバージョン数と配信量を確認して、落ち込みが大きいようなら刻みを小さくし、変化が落ち着いてから次を下げてください。
設定を終えたら、次のチェックリストで抜けを確認してください。
- コンバージョンの重複:同じ問い合わせが2回カウントされていないか。二重計測があるとCPAが実際の半分に見えます
- 最適化の対象:目標にしないコンバージョンが、自動入札の最適化対象から外れているか(設定箇所は前掲のGoogle広告ヘルプで確認)
- 計上期間:検討期間の長い商材で、コンバージョン計測期間が短すぎないか
- 目標値の記録:いつ・いくらに・なぜ変えたかをメモに残しているか
- キャンペーンの分割:粗利額が大きく違う商材が同じキャンペーンに同居していないか
この章で押さえるのは、目標CPAは計算式ではなく「粗利額」と「受注率」という2つの実データで決まるということです。この5ステップを終えれば、社内の誰に聞かれても「うちは1件1万6,800円まで。根拠はこれです」と答えられる状態になります。
目標CPAを決めた会社で変わること。判定の期間と基準
目標CPAを粗利から逆算して決めると、何が変わるか。一番大きいのは「広告費を増やす判断」と「止める判断」が、感覚ではなく数字でできるようになることです。
限界CPAが33,600円と分かっていれば、実績CPAが20,000円で回っているとき、迷わず予算を増やせます。逆に35,000円になったら、その月は赤字を出しているので即座に手を打つ判断ができます。この線引きがないと、「なんとなく高い気がする」で予算を止め、機会を逃すことになります。
判定に必要な期間と件数の考え方も決めておきましょう。ここは多くの会社が早まって判断してしまうところです。
| 状況 | 判定を急がない理由 | その間に見る数字 |
|---|---|---|
| 目標値を設定・変更した直後 | 自動入札が新しい目標値に合わせて配信を調整している最中 | 表示回数と配信量が急減していないか |
| 目標CPAが達成できているか | コンバージョン件数が少ないと1件の増減で単価が大きく動く | 実績CPAと、コンバージョン数の推移 |
| 受注率の見直し | 受注が積み上がらないと割合が安定しない | 問い合わせ→商談化→受注の各段階 |
件数が少ないうちに判断してはいけない理由は、数字で確かめられます。広告費16万円でコンバージョン8件ならCPAは20,000円ですが、同じ広告費で9件なら17,778円。たった1件で11%も変わります。これを「改善した」と判断して設定をいじると、次の月には逆方向にぶれます。
判定に使う件数の目安は、自社の実績から決めてください。過去数か月の月別CPAを並べて、上下の振れ幅が判断に耐えるくらい小さくなるのが何件からかを見ます。振れ幅が大きい月の件数より多く貯まってから、良し悪しを判断すると決めておけば、月次で数字が揺れても振り回されなくなります。
設定を変えた直後の期間についても同じです。変更前後で表示回数とコンバージョン数の動きが落ち着くまでは、追加の変更を重ねないでください。変更を重ねると、どの変更が効いたのか分からなくなります。
この章で押さえるのは、CPAは短期間で判断しないということです。設定を変えたら動きが落ち着くまで待ち、判断に足りる件数が貯まってから評価する。この2つを決めておくだけで、無駄な設定変更が減ります。
目標CPAの決め方でよくある失敗5つと防ぎ方
ここからは、実際の現場で繰り返し見かける失敗を挙げます。どれも計算式を間違えたわけではなく、使う数字の選び方でつまずくものです。
失敗1 売上単価で計算して、取るほど赤字になる
受注単価60万円の商材で、粗利率40%なのに「60万円 × 受注率14% = 84,000円まで出せる」と計算してしまうケースです。正しくは粗利24万円が起点なので、限界CPAは33,600円。2.5倍の差があります。
この状態で広告を回すと、問い合わせは増えて管理画面は好調に見えるのに、決算で利益が消えます。しかも件数が増えているぶん、現場の負荷は上がっています。
防ぎ方は、計算表の1行目を「売上単価」ではなく「粗利額」というラベルにしておくことです。単純ですが、これだけで社内の誰が触っても間違えにくくなります。
失敗2 資料ダウンロードと問い合わせを1つのCPAで見ている
コンバージョンを合算しているアカウントで起きます。資料ダウンロードは獲得しやすく単価が安いので、合算した平均CPAは、件数の多いほうに引っ張られます。
結果として、管理画面のCPAは月を追うごとに下がっているのに、営業に渡るリードの数は変わらない、という状態になりえます。数字だけ見ている人は「改善している」と報告し、営業は「広告経由は来ていない」と言う。この食い違いは、コンバージョンの中身を見るまで原因が分かりません。
防ぎ方は、ステップ1のとおりコンバージョンを1つに絞ることです。すでに合算してしまっている場合は、コンバージョンアクションごとの件数を出して、構成比が月ごとにどう変わったかを見てください。ダウンロードの比率が上がっていれば、これが起きています。
失敗3 実績より大幅に低い目標CPAを入れて配信が止まる
計算した目標CPAが実績の半分だったとき、そのまま入力してしまうケースです。Google広告ヘルプには「設定した目標額が低すぎるとコンバージョンにつながるクリックを逃してしまい、合計コンバージョン数が少なくなる可能性があります。」と明記されています(Google広告ヘルプ「目標コンバージョン単価」入札戦略について、2026年8月31日時点)。
実際、表示回数が大きく落ち込んで、コンバージョンがほぼゼロになることがあります。しかもCPAだけを見ると「安く獲れている」ように見えるので、問題に気づくのが遅れます。
防ぎ方は2つです。目標値を下げるときは一気に下げず、何回かに分けて刻むこと。もう1つは、CPAと同時に「コンバージョン数」と「インプレッションシェア」を必ずセットで見ることです。CPAが下がってもコンバージョン数が減っていたら、それは改善ではなく縮小です。
失敗4 LTVを盛って限界CPAを膨らませる
継続課金やリピート商材で起きます。「解約しなければ3年使うから、粗利は36か月分」と計算して限界CPAを大きく取るパターンです。
問題は、その36か月がまだ誰も到達していない期間だということです。サービス開始から1年しか経っていない会社が3年分の粗利を前提に広告費を使うと、回収より先に現金が出ていきます。広告費は今月払い、粗利は3年かけて入ってくるので、資金繰りだけが先に苦しくなります。
防ぎ方は、粗利に入れる期間を「解約データで確認できている継続月数の中央値まで」に限ることです。実績が6か月なら6か月分。データが伸びたら期間を伸ばして、限界CPAを引き上げていきます。
失敗5 商談化前のコンバージョンだけで最適化を続ける
フォーム送信だけを目標にしていると、広告側が判断材料にできるのは「フォームを送信したかどうか」までです。その先で商談になったか、受注になったかというデータは広告側に渡っていません。フォームを送信しやすい人と、契約してくれる人は同じではないので、送信件数が目標どおりでも中身が伴わないことがあります。
BtoBでよく起きるのが、学生・同業他社・営業目的の問い合わせが増えるパターンです。CPAは目標どおりなのに、営業が対応する時間だけが増えて受注が増えない。数か月続くと、営業側が広告経由のリードを後回しにするようになります。
防ぎ方は、受注や商談化のデータを広告側に返すことです。Google広告ヘルプには「オフライン コンバージョン インポートを使用すると、(中略)オンライン広告からどのように売上につながったかを把握できます。」と記載されており、インポートしたコンバージョンをスマート自動入札の対象にできると案内されています(Google広告ヘルプ オフライン コンバージョン インポートについて、2026年8月31日時点)。手順はオフラインコンバージョンのインポートで商談を計測する手順にまとめています。すぐに実装できない場合でも、月に一度、問い合わせ一覧に「商談化したか」の列を足して手で集計するだけで、質の変化には気づけます。
この章で押さえるのは、失敗の原因はほとんどが「計算に入れる数字の選び方」にあるということです。粗利で計算しているか、コンバージョンを混ぜていないか、期間を盛っていないか。この3点を確認すれば、大きな事故はほぼ防げます。
数字がそろわない現場での妥協点と、代理店選びで見るところ
ここまで読んで「うちには受注率を出せるだけのデータがない」と感じた方が多いはずです。粗利額と受注率をすぐに出せる状態になっていない会社は珍しくありません。ここでは、データが足りないときに現場でどう折り合いをつけているかを書きます。
一番よくあるのが、受注率のサンプル数が足りない問題です。月のコンバージョンが20件、受注率14%だとすると、受注は月に2〜3件。受注が2件だった月の受注率は10%、3件だった月は15%になります。この例で限界CPAを計算すると24,000円と36,000円で、月ごとに大きくぶれます。件数が少ないと、こういうことが起きます。
これに対する現場の妥協点は3つあります。
- 期間を伸ばして数える:月次ではなく直近6〜12か月をまとめて1つの受注率にする。件数が増えるほどぶれが小さくなります
- 低いほうを採用する:10%と15%で迷ったら10%で計算する。限界CPAを低く見積もっておけば、外しても赤字にはなりません
- 広告経由以外も含めて数える:広告経由だけで足りないなら、紹介や検索も含めた全体の受注率を暫定値にする。ただし紹介は事前の信頼がある分だけ受注率が高く出やすいので、その全体値をそのまま広告の計算に使わず、少し低めに見積もっておきます
次に多いのが、粗利率が案件ごとにバラバラという問題です。工事、受注生産、コンサルティングなどで起きます。全案件をならした粗利率で計算すると、単価の低い案件ばかり取ったときに赤字になります。
この場合は、粗利率ではなく「1件あたりの粗利額の中央値」を使うほうが実務に合います。金額で押さえるので、率のばらつきに影響されません。それでも幅が大きいなら、商材ごとにキャンペーンを分けて別々の目標CPAを持つのが本筋です。ただし分けると1キャンペーンあたりのコンバージョン件数が減るぶん、月ごとの実績CPAの振れ幅は大きくなります。分けたあとの各キャンペーンで月に何件コンバージョンが取れそうかを先に見積もって、数件しか見込めないなら分けずに、低いほうの粗利額で全体を計算してください。
目標CPAは一度決めたら固定、ではありません。競合の出稿が増えればクリック単価は上がりますし、繁忙期と閑散期では受注率も変わります。自社が何もしていないのに実績CPAが悪化することは普通に起きます。四半期に1回は受注率と粗利額を数え直して、目標CPAを更新してください。
代理店や運用者を選ぶときに見るべきところも、この文脈で決まります。最初の打ち合わせで「御社の粗利率と受注率はいくつですか」と聞いてくる相手かどうかです。それを聞かずに相場だけで目標を決めようとするところは、自社の利益構造を見ずに数字を作ろうとしています。
もうひとつ、CPAだけで運用を評価する契約にしないことです。CPAは、コンバージョンの定義を緩めれば簡単に下がります。「CPAは目標達成しているが受注は増えていない」という報告が続くなら、見ている指標が間違っています。評価の対象は、CPAと受注件数のセットにしてください。運用代行を比べる観点はBtoBで比べるリスティング広告の運用代行の選び方5項目にまとめています。
この章で押さえるのは、データが足りないときは「低いほうの数字を採用する」という原則です。限界CPAを低く見積もって外しても、失うのは機会だけ。高く見積もって外すと、現金が出ていきます。
広告のコンバージョン単価についてよくある質問
粗利率が案件ごとにバラバラで、1つの数字に決められません
率ではなく「1件あたりの粗利額の中央値」を使ってください。直近10〜20件の案件で受注金額から原価を引き、金額順に並べて真ん中の値を採用します。率のばらつきに引っ張られず、金額で上限を押さえられます。
目標CPAを、いまの実績CPAより高く設定してもいいんですか
限界CPAを超えていなければ問題ありません。むしろ、配信量が足りず受注件数を増やせないときは、目標を実績より高くして獲得を広げる判断が有効です。ただし上げるときも一度に大きく動かさず、受注件数の変化を確認しながら少しずつ進めてください。
目標値を設定する入札と「コンバージョン数の最大化」は、どちらを選べばいいですか
粗利から逆算した目標CPAが出せているなら、目標値を設定するほうを選びます。まだコンバージョン数が少なく目標値の根拠がない段階では、目標を入れずに件数を集めてから設定するのが現実的です。画面上の呼び方は変わることがあるため、実際のメニュー名はGoogle広告ヘルプで確認してください。
受注まで半年かかる商材でも、CPAで判断できますか
受注を待たずに、商談化率を暫定の判断基準にしてください。半年前の問い合わせから逆算して受注率を出しつつ、直近は「問い合わせ→商談化」までの単価で見ます。商談1件あたりの単価を目標に置くと、判断が半年遅れるのを避けられます。
計算した限界CPAが、いまの実績CPAより低くなってしまいました
その広告は現状では赤字なので、目標CPAを下げる前にコンバージョン率の改善を先に進めます。LPの入力項目を減らす、検索語句レポートから無関係な語を除外する、この2つが最も早く効きます。単価を下げにいくと配信が止まり、件数ごと失います。
まず1分でできることから
今日すぐできる最初の一歩は、直近3か月の問い合わせ一覧を開いて、そのうち受注に至った件数を数えることです。10件中1件なのか、3件なのか。この1つの数字が分かるだけで、限界CPAの計算は半分終わります。
目標CPAを決めたあと、毎週どの数字を見て何から直すかはGoogle広告の運用方法と毎週見る数字の順番にまとめているので、続けて読んでみてください。
ここまで読んで、粗利率や受注率を出すところで手が止まりそうだと感じた方は、一度お話を聞かせてください。目標CPAの決め方から見直す広告運用の支援では、毎月何から手をつけるかを一緒に決めて、実装まで進めます。判断の理由と手順を文書に残すので、社内で回せる人ができた時点で引き継げます。いまの数字を見せていただくだけでも大丈夫です。
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