資金繰り表をAIで見直す|入力してよい数字と確認する項目
この記事の要点
- AIに任せるのは抜けとずれの指摘。計算は表計算ソフトの式で出す
- 取引先名は記号に置き換え、口座番号と個人別の給与は入れない
- AIの指摘は6項目で確かめる。借入の判断は税理士と金融機関へ
資金繰り表をAIで見直すなら、合計と繰越の計算はExcelなどの表計算ソフトの式で出し、AIには「繰越のずれ」「入金月のずれ」「抜けている支払」の指摘を任せるのが確実です。入力する数字は、取引先名を記号に置き換えた月別の合計までにします。口座番号や社員ごとの給与は、見直しに使わないので入れません。
自社の資金繰り表を、まず経営者自身がAIで見直してみたい方に向けた記事です。読み終わる頃には、入力してよい数字の線引きと、AIの指摘を確かめる6項目が決まり、今月の表で試せる状態を目指します。
資金繰り表をゼロから作る話や、事業計画の数字づくりは扱いません。事業計画については事業計画書をAIで作成する手順で解説しています。
Contents / 目次
資金繰り表のどこをAIに任せ、どこを自分で確かめるか
資金繰り表でAIに任せられるのは、表を読んで「ここがずれている」「ここが抜けている」と指摘する作業です。合計の計算と、足りない資金をどう手当てするかの判断は任せません。
資金繰り表とは、月ごとの現金の入金と出金を並べ、月末にいくら残るかを見る表です。損益計算書が「いくら利益が出たか」を示すのに対し、資金繰り表は「支払いの日に現金が足りるか」を示します。
計算を任せない理由は、生成AIの仕組みにあります。生成AIとは、入力された文章や表をもとに、もっともらしい文章や表を新しく作るAIのことです。前月の残高を翌月に引き継ぐ計算を12か月続けると、途中で数字を誤ることがあります。表計算ソフトの式なら、同じ入力には毎回同じ答えが返ります。
| 作業 | AIに任せるか | 自分で行うこと |
|---|---|---|
| 入金・出金の合計、翌月繰越の計算 | 任せない(式の書き方を尋ねるのはよい) | 表計算ソフトの式で出す |
| 前月繰越と翌月繰越のつながりの確認 | 任せる | 指摘された月を、式の結果と照合する |
| 前後の月と比べて大きく違う数字の洗い出し | 任せる | 理由を通帳・請求書で確かめる |
| 抜けていそうな支払(賞与・納税・保険料)の指摘 | 任せる | 自社の支払予定と照合する |
| 入金が遅れた場合の見通し | 表の作り方の提案まで | 式で計算し、残高を見て判断する |
| 借入の要否、支払条件の変更 | 任せない | 顧問税理士・取引金融機関に相談する |
役割分担の決まり。数字は式で出し、AIには文章で指摘させます。AIが出した数字を、そのまま資金繰り表に書き写すことはしません。
経営者が知りたいのは「今月と来月、現金が足りるか」です。AIはその答えを出すのではなく、答えを出すための表に誤りや抜けが無いかを早く見つけるために使います。
資金繰り表をAIに入力してよい数字、伏せる数字
入力してよいのは、科目ごと・月ごとの合計金額です。取引先名は記号に置き換え、口座番号・社員ごとの給与・借入の契約書そのものは入力しません。見直しに使わない情報は、最初から渡さないのが原則です。
| 情報 | AIへの入力 | 理由 |
|---|---|---|
| 科目ごとの月別合計(売上の入金、人件費など) | 入力してよい | 見直しに使うのはこの数字 |
| 取引先名 | 「得意先A」「仕入先B」に置き換える | 入金のずれを見るには区別が要るが、名前は要らない |
| 口座番号・支店名 | 入力しない | 見直しに使わない |
| 社員ごとの給与・賞与 | 入力しない(人件費の合計だけ入れる) | 個人情報にあたり、合計で足りる |
| 借入の金融機関名・金利・返済条件 | 金融機関名は「借入1」に置き換え、毎月の返済額と最終返済月だけ入れる | 契約書のPDFや金利は、残高の確認に使わない |
| 未公表の大型受注・資金調達の予定 | 法人向けプランで、社内ルールが認める場合だけ | 社外に出たときの影響が大きい |
法人プランと個人プランで、入力内容の学習利用はどう違うか
線引きの前提は、入力した内容をAIの学習に使うかどうかの設定です。OpenAI(ChatGPT)、Anthropic(Claude)、Google(Gemini)はいずれも、企業として契約する法人向けプランでは、入力内容を初期設定ではモデルの学習に使わないと公式ページで説明しています(OpenAIの「Business data privacy, security, and compliance」、Anthropicの「How do you use personal data in model training?」、Googleの「Learn how Gemini in Gmail, Calendar, Chat, Docs, Drive, Sheets, Slides, Meet, Vids & Pics protects your data」。2026年10月9日時点)。
| 使い方 | 入力内容の学習利用 | 資金繰りの数字 |
|---|---|---|
| 法人向けプラン(会社が契約し、管理者がいる) | 初期設定では学習に使わない | 置き換え後の数字を入力してよい |
| 個人向けの無料版・有料版 | サービスによって初期設定が違い、設定で止められるものがある | 学習を止める設定を確かめるまで入力しない |
| 会計ソフトに組み込まれたAI | 会計ソフトの利用規約とデータの扱いに従う | 提供元の説明を読んでから使う |
学習に使わない設定でも、会話の保存期間や、管理者が会話の記録を確認できるかは別の設定です。プラン名と設定の正確な名称は各社の公式ヘルプで確かめてください。プランごとの違いはAIの法人プランと個人プランの違いで比べています。
社員が個人のアカウントで、会社の数字をAIに貼り始めている場合は、経営者と社員で考えるAI活用研修で、入力してよい情報を先に決める進め方もあります。
取引先名を記号に置き換えるときの決まり
- 毎月同じ記号を使う:先月「得意先A」だった会社を今月「得意先C」にすると、AIが入金の変化を比べられません。
- 対応表はAIに入れない:記号と社名の対応は社内のファイルにだけ保存し、同じ会話に貼りません。貼ると置き換えた意味がなくなります。
- 1社で売上の大半を占める場合:記号にしても、業種と金額から社名が推測できます。個人向けプランには入れず、法人向けプランで扱います。
この章で決めるのは、AIに渡す表の形です。科目別の月次合計と記号だけの表なら、法人向けプランで見直しに使えます。
資金繰り表をAIで見直す4つの手順
手順は次の4つです。
- 表を1枚にする
- AIに渡す
- 指摘を6項目で確かめる
- 入金が遅れた場合を試す
最初の1回で表と指示文を作り、2回目からは同じものを使い回します。
ステップ1 月別の資金繰り表を1枚の表にする
行を月、列を科目にした表を、来月から12か月分作ります。単位は千円にそろえます。次の例は、最初の3か月分だけを載せています(数字は仮のものです)。
- 次の例をコピーし、表計算ソフトのA1セルに貼り付けます。カンマ区切りの文字なので、貼っただけでは1行分がA列に入ります。
- Excelなら[データ]タブの[区切り位置]で、区切り文字にカンマを指定します。科目ごとの列に分かれます。
- 4か月目以降の行を、同じ形で12か月目まで書き足します。
月,前月繰越,売上の入金,その他の入金,仕入の支払,人件費,家賃・固定費,借入の返済,税金・社会保険,その他の支払,翌月繰越
2026年11月,5200,8400,0,4100,2600,450,600,380,200,
2026年12月,,9100,0,4600,3900,450,600,380,250,
2027年1月,,7800,0,3900,2600,450,600,380,200,
翌月繰越と、翌月の前月繰越は式で出します。最初の月の前月繰越だけは、通帳の月初の残高を入力します。
K2セル(翌月繰越) =B2+C2+D2-SUM(E2:J2)
B3セル(前月繰越) =K2
※K2の式は、K3から12か月目の行までコピーする
※B3の式は、B4から12か月目の行までコピーする(B2には通帳の残高を入力したままにする)
Excelの中でAIに式の書き方を尋ねる方法は、Copilot in Excelで表を自動集計する手順で解説しています。
ステップ2 表をテキストでAIに渡す
表は画像ではなく、文字のまま貼り付けるかCSVファイルで渡します。画像で渡すと、AIが数字を読み取るときの誤りが加わります。次の指示文を出発点にして、あとはAIと対話しながら自社の状況に合わせて詰めてください。
あなたは中小企業の資金繰り表を見直す担当者の補佐です。
次の表は[業種を入力]の会社の資金繰り表です。単位は千円、取引先名は記号に置き換えています。
1. 前月繰越と翌月繰越がつながっていない月を挙げてください。
2. 前後の月と比べて大きく違う入金・支払がある月と、考えられる理由を挙げてください。
3. この業種で一般に発生するのに、表に見当たらない支払を挙げてください。
新しい数字は作らず、確認すべき点だけを書いてください。
[ここに表を貼る]
どのAIでも、会社が契約した法人向けプランのアカウントで行います。
ステップ3 AIの指摘を6項目で確かめる
AIの返答は、たとえば次のような形で返ってきます。
・2026年12月の人件費が11月より1,300千円多くなっています。賞与の支払いと考えられます。
・2027年1月の税金・社会保険が他の月と同じ380千円です。賞与にかかる社会保険料が反映されていない可能性があります。
・2027年1月の売上の入金が、12月より1,300千円少なくなっています。
指摘が当たっているかを決めるのは、通帳と請求書を見られる担当者です。次の6項目を、AIの指摘と元の表の両方に当てはめて確かめます。
- 繰越のつながり:AIが挙げた月を、式の結果と照合します。AIの指摘そのものが誤っていることもあります。
- 入金の月:売上を計上した月ではなく、実際に振り込まれる月か。「月末締め翌月末払い」などの支払条件で確かめます。
- 納税の月:法人税と消費税は、原則として決算月の2か月後が納付の期限です。前の事業年度の税額によっては中間納付もあります(国税庁「主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日」「法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告」「No.6609 中間申告の方法」)。
- 賞与と社会保険料:社会保険料は前月分を当月末に納めるため、賞与にかかる保険料は賞与を払った翌月の支払に入ります(日本年金機構「厚生年金保険料等の納付」)。
- 源泉所得税の納付:納期の特例を受けている会社は、毎月ではなく7月と1月に半年分をまとめて納めます(国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」)。
- AIが作った数字:返答に、入力していない金額や科目が出ていないか。出ていたら根拠を尋ね、元の表に無ければ採用しません。
ステップ4 入金が1か月遅れた場合の表を作る
入金が1か月遅れたときに残高がどう変わるかを、次の順で試します。
- 表のシートを複製します。
- 売上の入金のうち、最も大きい得意先の分を1か月後ろにずらします。得意先ごとの入金額は、請求の一覧から拾います。
- 翌月繰越は式で出るので、どの月の残高がいちばん小さくなるかを確かめます。
- AIには「どの入金をずらして試すべきか」の候補と、結果の表の読み取りを任せます。
この記事では判断の目安として、月末の残高が、その月の固定的な支払(人件費・家賃・固定費・借入の返済の合計)を下回る月があるかを見ます。下回る月が見えたら、その月が来る前に顧問税理士や取引金融機関に相談します。
この章を終えると、毎月の見直しに使う表・指示文・確認の6項目がそろいます。2か月目からは、数字を差し替えて同じ指示文で回せます。
AIで資金繰り表を見直すときの失敗と、AIに決めさせない判断
資金繰り表をAIで見直すときの失敗は、渡す表の種類と、AIの返答の扱い方で起きます。次の4つは、このテーマに特有のものです。
試算表をそのまま渡すと、入金の月がずれる
会計ソフトの試算表は、売上を計上した月(入金の月ではない)で集計します。そのまま渡すと、AIは11月に計上した売上を11月の入金として読み、実際には12月末に入る現金を1か月早く見込みます。試算表から作る場合は、得意先ごとの支払条件の列を足し、入金の月に置き換えてから渡します。
AIに繰越を計算させると、ずれに気づけない
AIに「12か月の翌月繰越を計算して」と依頼すると、もっともらしい数字の表が返ってきます。途中の1か月で計算を誤っても、以降の月がすべて誤った数字のまま続くため、見た目では分かりません。合計と繰越は式で出し、AIには式の結果を読ませます。AIがもっともらしい誤りを返す理由は生成AIのハルシネーションはなぜ起きるかで解説しています。
「借入を検討しましょう」をそのまま判断に使う
残高が減る月がある表を渡すと、AIは借入や支払の延期を提案することがあります。AIは、取引金融機関との関係、既存の借入の条件、使える制度融資の最新の内容を知りません。AIの提案は「相談するときに確かめる論点の一覧」として扱い、借入の要否と金額は顧問税理士や取引金融機関と決めます。
記号の対応表を同じ会話に貼る
「得意先Aはどの会社か覚えておいて」と対応表を貼ると、取引先名を伏せた意味がなくなります。会話を社内の他の担当者と共有する機能を使うと、対応表ごと共有されます。対応表は社内のファイルだけに保存し、AIとの会話では記号のまま話します。
借入や支払条件の判断を相談する先
借入の要否と時期は顧問税理士、借入の条件は取引金融機関に相談します。顧問税理士がいない場合は、地域の商工会議所・商工会や、国が各都道府県に設けている「よろず支援拠点」で、資金繰りの相談ができます(よろず支援拠点全国本部)。相談の前に、ステップ4で作った「入金が遅れた場合の表」を用意しておくと、話が早く進みます。
つまりこの章で押さえるのは、AIの返答を「確かめる論点」として扱い、数字と判断は自社と専門家の側に残すことです。
自社で試す作業と、会社として仕組みにする作業
経営者が1人で、月に1回、自社の表で見直すところまでは自社で試せます。経理の担当者に広げ、毎月同じ手順で回すなら、表の形・置き換えの決まり・確認する担当者を先に決める必要があります。
| 項目 | 自社で試す | 会社として仕組みにする |
|---|---|---|
| 使う人数 | 経営者1人 | 経営者と経理の担当者 |
| 表の形 | ステップ1の表 | 会計ソフトから出した数字を、毎月同じ形に変換する手順書 |
| 置き換えの決まり | 経営者が決める | 記号の対応表と、入力しない情報を書いた社内ルール |
| 確認 | 経営者が6項目を見る | 担当者が6項目を見て、経営者が判断する |
毎月の見直しを同じ表と同じ指示文で続けると、前月の指摘と今月の指摘を並べて比べられます。入金のずれが同じ得意先で続いているかも、記号が毎月同じなら追えます。
経理の担当者と一緒に毎月の業務として回したい場合は、AIに任せる業務の洗い出しの相談から、入力する表の形と社内向けの手順書づくりまで進める方法もあります。
資金繰り表とAIについてよくある質問
無料版のChatGPTに、取引先名が入ったままの資金繰り表を貼ってしまいました。どうすればいいですか?
まず、その会話を削除し、設定で学習への利用を止めているかを確かめてください。すでに送った内容を取り消せるかは、サービスの説明によります。次回からは、会社が契約した法人向けプランで、記号に置き換えた表だけを使う決まりにします。
金融機関に出す資金繰り表をAIで作ってもいいですか?
見直しにAIを使うのは問題ありません。ただ、提出する表の数字は、通帳と請求書から式で出したものにします。金融機関から数字の根拠を尋ねられたとき、元の資料を示せる表であることが大切です。提出前に顧問税理士に目を通してもらうと安心です。
会計ソフトに付いているAIと、ChatGPTやClaudeに貼るのとでは、どちらがいいですか?
会計ソフトのAIは、記帳済みのデータをそのまま使えるので、表を作る手間がかかりません。汎用のAIは、指示文を変えて「抜けている支払」など自由に尋ねられます。まず会計ソフトのAIで何ができるかを提供元の説明で確かめ、足りない確認を汎用のAIで補う順が無理がありません。
資金繰り表が無い会社でも、AIに作ってもらえますか?
通帳の入出金の記録を科目別に分ける作業は、AIに下書きを任せられます。ただし、分類の誤りは通帳を見ている担当者にしか分かりません。最初の3か月分は通帳と照らして確かめ、ステップ1の表の形に入れてから、この記事の見直しに進んでください。
今日できる最初の一歩は、今月の資金繰り表で、取引先名・口座番号・社員ごとの給与が入っている列に色を付けることです。色が付いた列が、AIに渡す前に置き換えるか消す列です。社内で入力してよい情報の決まりを文章にしたい方は、生成AI社内ルールのサンプルと情報区分表も参考にしてください。
ここまで読んで、表の形や置き換えの決まりを経理の担当者と一緒に決めるのは手間がかかりそうだと感じた方は、中小企業のAI導入支援・DX支援にご相談ください。どの業務からAIに任せるかを、いまの状況を伺いながら一緒に決めていきます。初回のご相談は無料です。
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