見積書のAI作成と請求書処理|社長が決める単価と承認の考え方
この記事の要点
- 単価・値引き・支払条件は社長が決め、AIは明細の下書きまで
- 金額は表計算の式で計算し、AIが出した合計は使わない
- 承認ルールのひな形と出力の確認表7項目を本文に掲載
見積書のAI作成で任せてよいのは、依頼メモから品目と数量を書き出し、単価表の値を当てはめた明細の下書きまでです。単価・値引き・有効期限・支払条件は社長が決め、送付前の承認は、社長が決めた条件に沿って行います。受け取った請求書の処理も同じで、AIは読み取りと照合の下書きを担当し、登録番号の確認と支払いの判断は担当者が行います。
見積書の作成や、受け取った請求書の処理にAIを使えるか、自分で試そうとしている経営者・役員の方に向けた記事です。読み終わる頃には、AIに渡す情報、出力を確かめる項目、社員に任せる承認の条件を自社の数字で書き出せる状態を目指します。
過去の見積書をAIに参照させて、たたき台の精度を上げる手順は見積もりのたたき台をAIで作る|過去案件を参照させる4ステップで解説しています。この記事では、単価の決め方と承認の流れ、請求書処理で確かめることを扱います。
Contents / 目次
見積書のAI作成で、AIに任せる作業と社長が決める項目
AIに任せるのは「書き出す・当てはめる・文章にする」作業で、社長が決めるのは「いくらで、どの条件で売るか」です。生成AIとは、指示と資料をもとに文章や表を作るAIのことです。依頼メモを読んで品目を拾うのは得意ですが、取引先との関係や今期の利益の目標までは分かりません。
作業ごとの分け方は次の表のとおりです。
| 作業 | AIに任せる | 担当者が確かめる | 社長が決める |
|---|---|---|---|
| 依頼メモから品目と数量を書き出す | ○ | 数量の根拠 | - |
| 単価表の値を当てはめる | ○ | 単価表との一致 | 単価表そのもの |
| 金額・消費税の計算 | ×(表計算の式で行う) | 式の結果 | 端数処理の方法 |
| 値引き | × | 上限内か | 値引きの上限 |
| 前提条件・説明文の下書き | ○ | 事実との一致 | - |
| 有効期限・支払条件 | ×(会社の定型文を入れる) | 定型文のとおりか | 定型文の内容 |
| 送付 | × | 承認済みか | 承認の条件 |
金額の計算はAIに任せない。生成AIは文章を作る仕組みで、明細の行数が多いと合計が表の数字と合わないことがあります。計算は表計算ソフトの式で行い、AIには文字の作業だけを任せます。
この分け方なら、社長が一度決めた単価表と値引きの上限が、担当者が作る見積書すべてに効きます。社長が毎回明細を読む必要はなく、上限を超えた見積書だけを確かめれば足ります。
見積書をAIで作成する5つのステップ
進める順番は次の5つです。
- 単価表を決める
- 渡す情報を分ける
- 下書きを作らせる
- 計算し直す
- 確認表で確かめる
最初の2つは社長が決める作業で、ここを飛ばすとAIの出力を確かめる基準がありません。
ステップ1。社長が単価表と値引きの上限を決める
AIが当てはめる単価は、社長が確定した単価表の値だけにします。過去の見積書から単価を拾わせると、値上げ前の単価や特別に値引きした単価が混ざるからです。単価表には次の列を用意します。
品目,単位,標準単価,下限単価,改定日,適用条件
[例]現地調査,回,15000,12000,2026/10/01,半径30km以内
[例]設置作業,台,8000,7000,2026/10/01,
※下限単価を下回る見積書は、社長の承認に回す
※改定日が古い行は、年に1回社長が見直す
単価が社長の記憶にしかない場合は、直近の見積書10件ほどをAIに読ませて「品目ごとの単価の一覧」を下書きさせ、社長が1行ずつ確定させる方法があります。
ステップ2。AIに渡す情報と伏せる情報を分ける
AIに渡すのは、依頼メモ・単価表・会社の定型文の3つです。次の情報は渡しません。
- 原価・仕入れ値・粗利率
- 他社に出した単価
- 取引先の担当者の氏名と連絡先
取引先名は「A社」のように伏せて渡しても、明細の下書きには影響しません。伏せて渡した場合は、AIの出力を表計算ソフトに貼ったあとで、見積書を作成した担当者が本当の宛名と件名を入れます。
個人向けのプランで入力がモデルの改善に使われるかどうかは、サービスごとの利用規約とヘルプで決まります。主なサービスの確認先は次のとおりです。
- Gemini:GoogleはGemini アプリのプライバシー ハブで、「アクティビティの保存」がオンのときは会話が生成AIモデルのトレーニングを含むサービスの改善に使われると説明しています。オフにすると、今後の会話はトレーニングに使われません(フィードバックを送った場合を除く)。
- ChatGPT:データの扱いは、OpenAIのヘルプ「How your data is used to improve model performance」に載っています。
使い始める前に、使うサービスの公式のヘルプでデータの扱いを確かめ、学習に使う設定をオフにしてください。
プランごとの違いはAIの法人プランと個人プランの違いで比べています。
社員が個人のアカウントで単価表を貼り始めていて、入力してよい情報がまだ決まっていない場合は、経営者と社員が一緒に学ぶ120分のAI研修で、情報の扱い方を先に決める進め方もあります。
ステップ3。依頼メモと単価表を渡して明細の下書きを作らせる
指示文は短くて構いません。守らせる条件だけははっきり書きます。次のたたき台をもとに、AIと対話しながら自社の書式に合わせてください。
あなたは[業種]の見積書の下書きを作る担当です。
次の「依頼メモ」と「単価表」だけを使い、見積明細の表を作ってください。
・列は「品目/数量/単位/単価/税区分(標準・軽減)/備考」
・単価は単価表の標準単価をそのまま使う。単価表に無い品目は単価を空欄にし、備考に「要確認」と書く
・値引きの行は作らない。金額と合計は計算しない
・数量の根拠が依頼メモに無い行は数量を空欄にし、備考に「数量要確認」と書く
・数量と単価の列には数字だけを書く
・最後に、依頼メモから読み取れなかった点を3つまで箇条書きにする
[依頼メモを貼る]
[単価表を貼る]
「金額と合計は計算しない」と書くのが要です。AIに計算させない代わりに、次のステップで表計算に任せます。
ステップ4。金額と消費税は表計算の式で計算する
AIの出した表を表計算ソフトのB列から貼り、次の式で計算します。貼ると、B列が品目、C列が数量、D列が単位、E列が単価、F列が税区分、G列が備考になります。金額はH列、単価表との照合はI列に式を入れます。
【金額(H列)】
=C2*E2
【単価表との照合(I列)】※Excel 2021以降・Microsoft 365・Googleスプレッドシートで使える関数
=IF(E2=XLOOKUP(B2,単価表!A:A,単価表!C:C,"なし"),"","単価表と違う")
【税率ごとの合計】※明細の行数に合わせて範囲を変更
=SUMIF(F2:F30,"標準",H2:H30)
=SUMIF(F2:F30,"軽減",H2:H30)
【消費税額】※端数処理(切り捨て・四捨五入など)は社長が決めた方法に合わせる
=ROUNDDOWN(標準の合計のセル*0.1,0)
=ROUNDDOWN(軽減の合計のセル*0.08,0)
軽減税率(8%)の対象の飲食料品は、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、消費税率が1%に引き下げられる予定です。国税庁は、法案が国会で成立した場合の内容として説明しています。飲食料品を扱う場合は、国税庁の消費税率引下げ特設サイトで最新の内容を確かめ、式の税率を合わせてください。
I列に「単価表と違う」が1つでも出たら、その見積書は承認に回します。
XLOOKUP関数は、Excel 2016とExcel 2019では使えません(MicrosoftのXLOOKUP 関数のヘルプ)。Googleスプレッドシートでは使えます(GoogleのXLOOKUP 関数のヘルプ)。Excel 2016・2019では、照合の式を次のように書き換えます。
=IF(E2=IFERROR(INDEX(単価表!C:C,MATCH(B2,単価表!A:A,0)),"なし"),"","単価表と違う")
ステップ5。確認表7項目で確かめてから承認に回す
作成した担当者は、次の7項目を確かめてから承認者に回します。
- 宛名と件名に、伏せ字ではなく本当の取引先名と案件名が入っていて、依頼メモと一致している
- 依頼メモにある品目が明細から抜けていない
- 備考に「要確認」「数量要確認」と書かれた行の数量と単価が、すべて埋まっている
- I列に「単価表と違う」が無い(あれば承認に回す理由を書く)
- 税区分が「軽減」の行は、酒類・外食を除く飲食料品など軽減税率の対象の品目だけで、合計と消費税が表計算の式で出した値になっている
- 有効期限・支払条件が会社の定型文のとおりになっている
- 説明文に原価・粗利・他社の単価が書かれていない
この章で押さえるのは、AIの出力を確かめる基準が単価表と確認表の2つで決まることです。この2つが無いまま始めると、担当者は何を見て承認すればよいか分かりません。
見積書の承認の流れ。社員に任せる条件と社長に上げる条件
承認は、単価表どおりの見積書を社員に任せ、単価表から外れる見積書だけを社長に上げる形にします。条件は金額ではなく「単価表から外れたかどうか」で分けるのが基本です。金額だけで分けると、少額でも下限単価を割った見積書が社長を通らずに出てしまいます。
次の表は、仮の数字を入れた承認ルールのひな形です。5%などの数字は自社の利益の基準に置き換えてください。
| 見積書の条件 | 承認する担当 | AIに事前に作らせるもの |
|---|---|---|
| 単価表どおり・値引きなし・既存の取引先 | 作成者とは別の担当者1人 | なし(確認表7項目で確かめる) |
| 値引きが仮に5%以内 | 営業の責任者 | 値引きの理由を2行でまとめた承認依頼文 |
| 単価表に無い品目・下限単価未満・値引き5%超・新規の取引先・支払条件の変更 | 社長 | 該当する条件と理由を書いた承認依頼文 |
承認依頼文をAIに下書きさせると、社長は「何が単価表と違い、なぜか」を数行で読めます。依頼文に入れる項目は次の5つです。
- 取引先(伏せ字可)
- 該当する条件
- 単価表との差額
- 理由
- 回答期限
承認の記録は、見積書の一覧表に「承認者」「承認日」の列を足すだけでも残せます。申請と承認をシステムで回したい場合は、kintone×AIで申請業務を自動化する手順が参考になります。
AIに承認そのものを判断させる仕組みも作れますが、値引きの可否は取引先との関係や今期の利益で変わります。AIには承認依頼文の下書きまでを任せ、承認するかどうかは、承認ルールの表で決めた承認者が判断してください。
この章で押さえるのは、承認の条件を「単価表から外れたか」で書き出せば、社長が見る見積書を、単価表から外れたものだけに絞れることです。
請求書処理のAI活用。インボイスの記載事項と電子保存で確かめること
受け取った請求書の処理では、AIに読み取りと照合の下書きを任せ、登録番号と振込先の確認は担当者が行います。読み取った項目は、国税庁のタックスアンサー「No.6625 適格請求書等の記載事項」にある適格請求書の記載事項6つと照らします。
| 記載事項 | 担当者が確かめること |
|---|---|
| 発行した事業者の名称と登録番号 | 「T」と13桁の数字を、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで照合する |
| 取引年月日 | 納品書・検収の日付と合っている |
| 取引内容(軽減税率の対象であればその旨) | 注文した品目と合っている |
| 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)と適用税率 | 税率の区分を読み違えていない |
| 税率ごとの消費税額等 | 端数処理は1枚の請求書につき税率ごとに1回(国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問57」) |
| 交付を受ける事業者(自社)の名称 | 自社名の誤りが無い |
振込先と支払期限は記載事項ではありませんが、支払いには欠かせません。AIが読み取った振込先が取引先の登録情報と違う場合は、請求書に書かれた連絡先ではなく、以前から使っている電話番号で取引先に確かめてください。
登録番号が無い、または公表サイトと合わない場合に変わるのは、自社の仕入税額控除の扱いで、代金の支払い義務は変わりません。免税事業者からの仕入れには、控除できる割合を段階的に下げる経過措置があります。割合と適用期間は税制改正で変わるため、国税庁のインボイス制度特設サイトで最新の内容を確かめてください。
メールやクラウドで受け取った請求書と、メールで送った見積書のPDFは、電子帳簿保存法の「電子取引データ」に当たります。2024年1月以降は、紙に印刷して保存する代わりにはできず、電子データのまま保存する必要があります。保存するのはAIの下書きではなく、実際に送ったPDFです。
保存のときの要件には、主に次のものがあります。
- 取引年月日・取引金額・取引先で検索できるようにする
- 改ざんを防ぐ措置(訂正削除の防止に関する事務処理規程など)を取る
- 保存したデータを、ディスプレイやプリンタで速やかに表示・出力できるようにしておく
売上高が一定以下の事業者などは検索の要件が不要になる場合があり、要件に沿った保存ができない相当の理由がある場合の猶予措置もあります。自社に当てはまる要件と例外は、国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトにある「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」で確かめてください。
会計ソフトへの取り込みにも注意があります。会計ソフトのCSV取り込みは、ソフトごとに列の形式と必須の項目が決まっています。AIに作らせた任意の列のCSVは、そのままでは取り込めません。
使っている会計ソフトのヘルプで取り込みの形式を確かめてから、列を合わせてください。読み取りから入力までの手順は請求書・領収書をAI-OCRでデータ化する手順で解説しています。
この章で押さえるのは、請求書処理のAIは読み取りの手間を減らすもので、登録番号・振込先・保存の3点は担当者の確認が欠かせないことです。
見積書と請求書のAI処理で起きる失敗4つと防ぎ方
見積書と請求書をAIで処理するときに起きやすいのは、計算・情報の扱い・単価の鮮度・保存の4つの失敗です。
AIに合計を計算させると、明細と合計が合わなくなる
明細の行数が多い見積書で合計までAIに出させると、行の金額の合計と一致しないことがあります。そのまま送ると、取引先の経理で差し戻されます。指示文に「金額と合計は計算しない」と書き、計算は表計算の式で行えば防げます。
原価表を渡して説明文を作らせると、原価が文面に出る
「なぜこの金額になるか」の説明文を作らせるときに原価表まで渡すと、説明文に仕入れ値や利益の幅が書かれることがあります。取引先に送れば、次の値下げ交渉の材料になります。説明文の作成に渡すのは単価表と作業内容だけにし、確認表の7番目で必ず確かめます。
過去の見積書を参照させると、値上げ前の単価が入る
過去の見積書をAIに読ませて単価を拾わせると、改定前の単価がそのまま入ります。単価表に改定日の列を設け、AIには単価表の値だけを使わせれば、古い単価は入りません。
電子で受け取った請求書を印刷して、PDFを消す
AIで読み取ったあと、紙に印刷して原本として綴じ、メールのPDFを消してしまうと、電子帳簿保存法の保存の要件を満たせません。読み取りに使ったPDFは、検索できる名前(日付_取引先_金額)で保存フォルダに移してから処理します。
この章で押さえるのは、失敗の4つとも、単価表・指示文・確認表のどこに一文を足せば防げるかが決まっていることです。
見積書のAI作成を社長が自分で試す方法と、会社の仕組みにするとき
社長が自分で試すなら、直近の見積書3件を使い、単価表づくりとステップ3の下書きまでで十分です。AIの下書きと実際に送った見積書を並べれば、どの行で手間が減るかが分かります。
毎月同じ形の見積書が何十件も出る、社員にも同じ手順で作らせたい段階になったら、単価表・指示文・確認表・承認の条件を1つの手順書と入力フォームにまとめる必要があります。この作業を社内だけで進めるのが難しい場合は、AI導入支援・DX支援で、AIに任せる処理と担当者が確認する内容を決めるところからご相談いただけます。社員向けの手順書づくりをご希望の場合は、初回のご相談で伺います。
見積書のAI作成と請求書処理のよくある質問
見積書の有効期限や支払条件もAIに書かせていいですか?
文面はAIに作らせず、会社で決めた定型文をそのまま入れてください。AIは依頼メモの内容に合わせて期限を変えることがあります。定型文を単価表と同じファイルに置き、指示文で「定型文をそのまま使う」と書いておけば、担当者ごとに条件が変わることを防げます。
単価表がなく、社長の頭の中で単価を決めている会社でも始められますか?
始められます。直近の見積書10件ほどをAIに読ませ、品目ごとの単価の一覧を下書きさせてください。社長がその一覧を1行ずつ確定させれば単価表になります。確定前の一覧を社員に使わせないことだけ守ってください。
AIで読み取った請求書に登録番号が無かったら、支払いを止めるべきですか?
止める必要はありません。登録番号が無いことで変わるのは自社の仕入税額控除の扱いで、代金の支払い義務は変わりません。控除できる割合は経過措置で段階的に変わるため、最新の割合は国税庁のインボイス制度特設サイトで確かめてください。取引先が登録を済ませていないだけの場合もあるので、確認の連絡を入れておくと次の請求から扱いが分かります。
見積書の作成に無料版のAIを使っても問題ありませんか?
単価表と伏せ字にした依頼メモだけを渡すなら、試すことはできます。ただし個人向けのプランで入力がモデルの改善に使われるかどうかは、サービスごとに異なります。
使う前に、次の公式のヘルプでデータの扱いを確かめ、学習に使う設定をオフにしてください。
- Gemini:Gemini アプリのプライバシー ハブ
- ChatGPT:OpenAIの「How your data is used to improve model performance」
原価や取引先名を入れて社員が毎日使う段階では、管理者が設定を管理できる法人向けプランに切り替えてください。
まずは直近の見積書3件を並べ、単価表どおりでない単価に印を付けてみてください。印が付いた行が、社長が承認の条件として決める項目です。社員が使うときのルールまで決めるなら、生成AI社内ルールのサンプルのひな形が使えます。
単価表や承認の条件を決めても、担当者が毎月同じ手順で回す形にするには、入力フォームと手順書まで作る必要があります。自社だけで進めるのが難しいと感じた方は、AI導入支援・DX支援の相談から始めてみませんか。初回のご相談では、いま見積書をどう作っているかを伺い、優先するテーマと進め方をご相談します。
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