建設業のAI活用セミナー|社内研修で扱う業務と講師に依頼する作業
この記事の要点
- 研修で扱う業務は、KYシート・日報・打合せ記録の3つを初期案に、受講者への聞き取りで決める
- 図面と作業員名簿は、研修の前に入力禁止の情報として決める
- 講師に送る質問文と、費用が変わる7項目を本文に掲載
建設業のAI活用セミナーを社内研修として開くなら、扱う業務は「書類の下書き」に絞るのが確実です。具体的には危険予知(KY)活動のシート、作業日報、工程会議の打合せ記録の3つ。数量の計算や安全の最終判断は、研修でもAIに任せない作業として教えます。
この記事は、研修の実施を決める経営者・役員の方に向けたものです。読み終わる頃には、自社の研修で扱う業務、講師に依頼する作業、契約前に講師へ確かめる質問を決められる状態を目指します。
社内で決める作業と講師に依頼する作業の分け方、費用が変わる条件、助成金の要件までを扱います。AIを試す業務そのものの事例を先に知りたい方は、建設業のAI活用事例と最初に試す業務からお読みください。
Contents / 目次
建設業のAI活用セミナーで扱う業務の結論
社内研修で扱う業務は、現場監督と事務担当者が毎日書いている文書から選びます。研修の翌日から自分の仕事で使えるかどうかで、定着が決まるからです。
建設業の書類は、決まった項目に現場ごとの事情を書き足す形が多く、生成AIの下書きと相性がよい業務です。
生成AIとは、指示した内容をもとに文章や表を作るAIのこと。ChatGPT、Claude、Gemini、Microsoft Copilot などがあります。
逆に、数量・寸法・金額の計算や、安全対策が足りているかの判断は、AIの回答が誤っていても気づきにくいため、担当者が行う作業として残します。
| 業務 | AIに任せる作業 | 社内で確認する作業 | 研修で扱うか |
|---|---|---|---|
| KY活動のシート | 作業内容から予想される危険と対策の候補を表にする | 現場の状況に合っているか、対策の担当者を職長が決める | 扱う |
| 作業日報 | 箇条書きのメモを決まった書式の文章にする | 人数・時間・進捗の数字が実際と合っているか | 扱う |
| 工程会議の打合せ記録 | 録音の文字起こしから決定事項と宿題を抜き出す | 発注者と協力会社の名前、日付、決定事項の取り違え | 扱う |
| 協力会社・近隣への案内文 | 工事のお知らせや日程変更の文面を作る | 工期・時間帯・連絡先の正しさ | 研修では扱わず、研修後に各自で試す |
| 施工計画書 | 過去の計画書の構成をもとに章立ての下書きを作る | 工法・数量・安全対策の中身すべて | 研修では構成づくりまで |
| 積算・見積もり | 過去の見積書の項目の抜けを指摘させる | 数量と単価の計算すべて | 研修では扱わない |
表の上3つは、研修の2時間で受講者が自社の書類を使って試せる業務です。案内文は、3つの業務で覚えた使い方をそのまま当てはめられるので、研修後に各自で試します。施工計画書は分量が多く、受講者ごとに工事が違うため、研修では章立ての下書きまでにとどめます。
個人のアカウントでAIを業務に使い始めた担当者がいて、入力してよい情報がまだ決まっていない場合は、経営者と社員で考えるAI活用研修で、入力した情報がAIのサービス側でどう扱われるかを先に学ぶ進め方もあります。
この章の結論。研修で扱う業務は「毎日書く書類」から選び、数量・金額・安全の判断は担当者が行う作業として研修の中で線を引きます。
建設業のAI活用を社内研修で教える手順
社内研修は、業務の選定、情報のルール、当日の題材、研修後の確認の4つの手順で組み立てます。講師を外部に依頼する場合も、手順1と2は社内で決めておくと、研修の中身が自社の現場に合います。
ステップ1。研修で扱う業務を3つに絞る
前の章の表から、受講者の多くが週に3回以上書いている書類を3つ選びます。選ぶときは、受講者全員に次の3点を聞いてください。
- 1週間に書く書類の名前と回数
- 1回の作成にかかる時間
- 書くときに毎回調べ直していること
回数×時間が大きい書類から順に選びます。現場監督と事務担当者が同じ研修を受ける場合は、両方が書く書類(日報・打合せ記録)を1つ入れると、受講者の間で使い方を教え合えます。
KYシート・日報・打合せ記録の3つは、この記事で示す初期案です。聞き取りの結果、回数×時間がより大きい書類がほかにあれば、その書類に差し替えてください。差し替えた場合は、ステップ3の時間割の演習も、選んだ書類に置き換えます。
ステップ2。AIに入力してよい情報を決める
研修の前に、AIに入力してよい情報と入力してはいけない情報を表にします。建設業では、発注者から預かった図面や作業員名簿のように、自社だけで扱いを決められない情報が多いためです。
| 区分 | 建設業での例 | 扱い |
|---|---|---|
| 入力してよい | 一般的な工法の説明、自社で作った書式、公開されている工事のお知らせ | 会社が認めたAIで使ってよい |
| 加工すれば入力してよい | 日報のメモ、打合せの文字起こし | 人名・社名・現場名を記号に置き換えてから入力する |
| 入力してはいけない | 発注者の図面・設計図書、作業員名簿、健康診断の結果、入札前の金額 | AIに入力しない |
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日公開)では、組織編の3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて入りました。組織編の解説書(PDF)は、従業員が個人アカウントでAIを業務に使っていることを職場が認識できない点をリスクに挙げています。
研修では、会社が認めた法人向けのプランで使うことと、個人アカウントでの業務利用を禁止することを同時に伝えます。
プランの違いはAIの法人プランと個人プランの違いで解説しています。ルールの文面は生成AIの社内ルールのひな形を使えます。
ステップ3。研修当日の題材と時間割を用意する
当日は、受講者が自社の書類を使って、AIの下書きを確認するところまで行います。2時間の研修なら、次の時間割が目安です。
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 0〜20分 | ステップ2の表を全員で読み、入力してはいけない情報を確かめる |
| 20〜60分 | KY活動のシートの下書きを作り、職長の目で修正する |
| 60〜100分 | 日報のメモと打合せの文字起こしを書式に合わせる |
| 100〜120分 | 翌日から使う書類と、使うときの確認項目を決める |
KY活動のシートでは、次のような短い指示文を出発点にします。あとはAIとやり取りしながら、自社の書式に合わせて修正してください。
あなたは建設現場の安全担当者の補助です。
次の作業内容から、危険予知(KY)活動のシートの下書きを作ってください。
・作業:[例 2階スラブの型枠解体]
・人数と経験:[例 4人、うち1人は入場3日目]
・天候と時間帯:[例 午後、風が強まる予報]
・使う機械:[例 高所作業車]
出力は表にし、「予想される危険」「その原因」「対策」「担当」の4列にしてください。
「担当」は空欄のままにしてください。
条件から分からない項目は推測で埋めず、「要確認」と書いてください。
研修で一番時間をかけるのは、出てきた表の確認です。職長役の受講者が、危険の候補に現場で起こりえないものが混ざっていないか、入場して日が浅い作業員への対策が入っているかを読み、修正した箇所を全員で共有します。「担当」の列を空欄にさせるのは、誰がどの対策を受け持つかを職長が決めるためです。
ステップ4。研修後2週間で使われているか確かめる
研修の翌日から2週間、受講者に次の項目を記録してもらいます。
- 使った書類:日報・KYシート・打合せ記録のどれに使ったか
- 修正した箇所:AIの下書きのどこを担当者が修正したか
- かかった時間:研修前と比べた1回あたりの作成時間
- 使わなかった理由:現場で使えなかった日の理由
修正した箇所の記録は、2回目の研修や社内ルールの見直しの材料になります。仮に現場監督5人が日報と打合せ記録で1日20分ずつ短くできれば、週5日で約8時間です。数字は現場ごとに違うので、この記録で自社の実際の時間を出します。
この章の結論。業務の選定と入力のルールは社内で先に決め、当日はAIの下書きを担当者が修正する練習に時間を使います。効果は研修後2週間の記録で測ります。
講師に依頼する作業と費用が変わる条件
講師に依頼するのは、研修の設計と当日の進行、研修後の質問対応です。業務の選定と入力のルールの決定は、会社として責任を持つ判断なので社内に残します。
| 作業 | 社内で行う | 講師に依頼する |
|---|---|---|
| 研修で扱う業務の選定 | ○ | 候補の提案は依頼できる |
| 入力してよい情報の決定 | ○ | ひな形の提供は依頼できる |
| 自社の書類を題材にした演習の作成 | 書類の提供 | ○ |
| 当日の進行と個別の質問対応 | ○ | |
| 研修後の質問の受付 | 記録の集計 | ○(契約で決める) |
AI研修の費用が変わる7つの条件
見積もりの金額は、次の7つの条件で変わります。複数の講師から見積もりを取るときは、この7つをそろえて比べてください。
- 受講人数と、1回に受ける人数
- 研修の時間と回数
- 会場(自社に来てもらうか、オンラインか)と講師の交通費
- 事前のヒアリングの有無
- 自社の書類を題材にした演習を作るか、汎用の演習を使うか
- 研修後の質問対応の期間
- 法人向けプランの設定や社内ルールづくりの支援を含むか
5番目の「自社の書類を題材にした演習」は、事前の準備時間がかかる分、金額が上がる条件です。ただし建設業の研修では、汎用の演習だけだと翌日の現場で使う書類と結びつかず、研修費を払っても使われない状態になりやすくなります。内訳の見方はAI研修の費用と内訳8項目で詳しく解説しています。
契約前に講師へ送る質問文
見積もりを依頼するときに、次の文面を送ると、各社の対応を同じ条件で比べられます。
件名 社内のAI活用研修のお見積もりについて
[会社名]の[担当者名]です。
現場監督と事務担当者を対象に、生成AIの社内研修を検討しています。
次の点を教えていただけますか。
1. 当社の作業日報・KY活動のシートを題材にした演習を作っていただけますか。
2. 図面や作業員名簿など、入力してはいけない情報の扱いを研修で扱いますか。
3. 研修で使うAIは、当社が契約する法人向けのプランに合わせていただけますか。
4. 研修後に受講者から質問を受ける期間と方法はどうなりますか。
5. お見積もりに含まれる作業と、別料金になる作業を分けて教えてください。
受講予定は[人数]名、時期は[月]頃を考えています。
よろしくお願いいたします。
人材開発支援助成金を使うときの条件
社内研修の費用に人材開発支援助成金を使う場合、要件を満たすかは、自社が主催する訓練(事業内訓練)の計画として判断されます。
厚生労働省の「令和8年度版 人材育成支援コースのご案内(令和8年8月3日版)」(PDF)には、次の要件があります。
- 計画届は、訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出する
- 訓練時間は10時間以上が必要
- 事業主が企画・主催すれば、外部講師を招いても「事業内訓練」になる
同じパンフレットでは、訓練経費を事業主が全額負担することが支給の要件とされています。返金などで実際には経費を負担していない場合は、助成金を受け取れません。
2時間の研修1回では10時間に届かないので、人材育成支援コースを使うなら、研修の回数と時間を計画の段階で組み直す必要があります。
人材育成支援コースとは別の、事業展開等リスキリング支援コースにも改正があります。厚生労働省の「令和8年8月3日からの変更点について」(PDF)では、生成AIを使うために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練は、このコースの対象外になりました(経過措置あり)。同じ資料では、生成AIを使って商品提案書の構成案の作成や文章の修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練を、業務に直結する内容として助成対象の例に挙げています。
どちらのコースも要件は改正で変わるため、使うなら計画の段階で管轄の労働局に相談してください。各コースの資料は厚生労働省の人材開発支援助成金のページにまとまっています。申請の流れはAI研修の助成金の条件と申請の流れにまとめています。
研修のあとに、1つの業務でAIを使う仕組みを作りたい場合は、研修とは別に、仕組みの設計や開発を依頼することになります。建設業向けには、日立ソリューションズの建設業向けAIエージェント活用ソリューションのように製品を提供するITベンダーもあります。
依頼先の種類の違いはAI導入支援の会社の違いで比べています。
AIに任せる処理と担当者が確認する内容を決めるところから相談したいときは、AI導入支援・DX支援という進め方もあります。
この章の結論。講師には設計・進行・研修後の対応を依頼し、業務の選定と情報のルールは社内で決めます。見積もりは7つの条件をそろえ、質問文で各社の対応を同じ形で比べます。
建設業のAI研修がうまくいかない条件と防ぎ方
建設業の社内研修で効果が出ないのは、受講者の日程、題材、情報の扱い、計算の任せ方、助成金の期限のどれかが現場と合っていない場合です。それぞれ起きる条件と防ぎ方を示します。
現場が動く平日の日中に研修を組むと、現場監督が受けられない
工期の中盤に研修日を決めると、現場監督は現場を離れられず、事務担当者だけが受講する形になりがちです。その結果、KYシートや日報を書く当人がAIの使い方を知らないまま、研修が終わります。
研修日は、工事の切れ目や朝礼後の短い時間に分けるなど、現場監督の予定から先に決めます。1回2時間が取れない場合は、30分×4回に分けても構いません。
汎用のChatGPT入門だけで終わると、翌週から使われない
建設業以外の受講者と同じ演習(メール文の作成など)だけで研修を終えると、受講者は自分の書類での使い方が分からないまま現場に戻ります。研修の前に、ステップ1で選んだ書類の書式を講師に渡し、演習の題材にしてもらいます。書式を渡すときは、人名・現場名を消した見本を使います。
作業員名簿や図面を個人アカウントに入力してしまう
入力のルールを決めずに研修を始めると、受講者は手近な書類をそのまま貼り付けて試します。作業員名簿には生年月日や健康状態などの個人情報が含まれ、図面は発注者との契約で扱いが決まっている場合があります。研修の最初の20分でステップ2の表を全員で読み、会社が認めた法人向けのプラン以外では業務に使わないことを伝えます。
数量や金額の計算をAIに任せると、誤りに気づけない
生成AIは、もっともらしい数字を出しますが、計算が正しいとは限りません。数量拾いや単価の掛け算をAIに任せて見積書に転記すると、誤りが発注者に出るまで気づかないことがあります。研修では「AIが出した数字は、元の資料と照らし合わせる」を確認項目に入れ、計算は表計算ソフトで行うと決めます。
助成金の支給を前提に日程を組むと、計画届の期限に間に合わない
研修日を先に決めてから助成金を調べると、訓練開始日の1か月前までという計画届の期限を過ぎてしまうことがあります。助成金を使うなら、研修日から逆算して2か月以上前に労働局へ相談し、使わない場合の予算でも実施するかを先に決めておきます。
この章の結論。研修日は現場監督の予定から決め、題材は自社の書類、最初の20分は入力のルール、計算はAIに任せないと決めます。助成金を使うなら研修日から逆算して労働局に相談しておくと、5つの失敗を防ぎやすくなります。
建設業のAI活用セミナーのよくある質問
職人さんや協力会社の作業員も、AI研修を受けたほうがいいですか?
最初の研修は、書類を書く現場監督と事務担当者に絞るのがおすすめです。職人さんや協力会社の作業員には、KYシートの下書きをAIで作り、職長が確認して朝礼で読み上げる流れから伝えます。協力会社の社員は自社の社内ルールの対象外になるため、入力のルールは別に取り決めが必要です。
外部のAI活用セミナーと、自社向けの社内研修はどちらがいいですか?
経営者がAIで何ができるかを知る段階なら、外部のセミナーで十分です。現場監督や事務担当者が自社の日報やKYシートでAIを使えるようになるには、自社の書類を題材にした社内研修が向いています。外部セミナーで方向を決め、社内研修で現場の書類に落とし込む順番も選べます。
タブレットやスマホしか使わない現場監督でも研修を受けられますか?
受けられます。主な生成AIにはスマホのアプリがあり、音声で話した内容を日報の下書きにする使い方は、現場からでもできます。研修の前に、会社が認めたAIのアカウントを各自の端末でログインできる状態にしておくと、当日の時間を演習に使えます。
施工計画書をAIで作って、そのまま提出しても問題ありませんか?
そのまま提出するのは避けてください。AIが作れるのは章立てや文章の下書きまでで、工法・数量・安全対策が現場に合っているかの判断は担当者が行う作業です。発注者によっては書式や記載事項の指定があるので、提出前に指定と照らし合わせて確認します。
まずは、現場監督に「1週間に書く書類の名前と回数」を聞き、研修で扱う業務の候補を3つ書き出してみてください。研修を開いても使われない原因を先に知っておきたい方は、AI研修が定着する条件と依頼前の質問8つもあわせてお読みください。
研修で扱う業務や入力のルールを社内で決める前に、経営者と現場監督が一緒にAIの基本を学びたい方は、経営者と社員で考えるAI活用研修をご覧ください。事前の打ち合わせで担当業務やAIの利用経験を伺い、研修内容を作成します。研修の後半のディスカッションでは、自社で試す業務について講師と意見を交わします。自社の書類を使った活用方法の設計や実践は研修に含まれないため、ご希望の場合は別途ご相談ください。
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