AI導入の失敗原因は範囲と担当|導入前に決める5項目と確認表
この記事の要点
- AI導入が止まる原因は、ツールではなく対象業務の範囲と担当の空白
- 導入前に決める5項目を、そのまま使える決定シートの形で解説
- 費用が変わる4つの内訳と、契約前に確認する質問の表つき
AI導入が止まる会社に共通するのは、ツール選びの失敗ではありません。「どの業務の、どこからどこまでをAIに任せるか」という範囲と、「誰が決めて、誰が毎週見るか」という担当が、契約の前に決まっていないことです。ここが空白のまま始めると、研修は受けたのに使う場面が無い、試作は動いたのに誰も運用しない、という止まり方をします。
この記事は、AIの仕組みを自分で組む人ではなく、どこに頼むか・いくらかかるか・任せて大丈夫かを判断する立場の方(経営者・役員・院長・施設長)に向けて書いています。読み終わる頃には、導入前に社内で決める5項目を埋め、見積もりの内訳を見比べ、契約前に聞く質問を手元に持っている状態を目指します。
すでに止まった案件の個別の失敗事例と、撤退ラインの決め方はAI導入の失敗事例と原因|撤退ラインの決め方と費用の見方で扱っています。この記事では「止まる前に決めること」に絞ります。
Contents / 目次
AI導入が止まる会社の共通点は、範囲と担当の空白
AI導入が止まる会社の共通点は、「対象業務の範囲」と「担当」の2つが、導入を決めた時点で空白になっていることです。ツールの性能や費用の多寡は、止まる原因としては2番目以降に来ます。
ここで言う範囲とは、「請求書の入力のうち、読み取りと科目の仮当てまでをAIに任せ、確定は経理が行う」のように、業務名と、AIが行う段階と人が行う段階の境目まで書かれた状態のことです。担当とは、「決める人」「回す人」「確かめる人」の3つの役に、名前が入っている状態のことです。
止まる会社で実際に起きているのは、次の2つの状態です。
1つ目は範囲の空白です。「AIを入れる」ことは決まっているのに、「請求書の入力」のような業務名まで落ちていない状態です。
2つ目は担当の空白です。担当は社内で詳しい若手に任せた形になっているが、その人はその業務の結果に責任を持っていない状態です。筆者がこれまで相談を受けてきた範囲では、この2つが重なると、数か月のうちに誰も画面を開かなくなります。
AI導入が止まった会社の担当者から、よく聞く言葉があります。「ツールは入れました。でも誰が毎週見るのかを決めていなかったので、気づいたら誰も開かなくなっていました」。この一言の中に、範囲と担当の両方の空白が入っています。
| 決める項目 | 止まった時点の状態 | 回っている会社の状態 |
|---|---|---|
| 対象業務 | 「業務効率化」「事務作業全般」と書かれている | 業務名と月の件数、1件の所要時間まで書かれている |
| AIと人の境目 | 「AIがやってくれる」で止まっている | 段階ごとにAI・人・AIのあと人が確認、の印がある |
| 決める人 | 「任せた」と言った人が打ち合わせに出ない | 経営者本人か、権限を渡された1人が出席する |
| 回す人 | 決まっていない、または詳しい人の善意 | 週1回、止まっている箇所を報告する人が決まっている |
| 確かめる人 | 元の担当者に「見ておいて」と足しただけ | 確認にかかる時間を見積もり、業務時間に組み込んでいる |
| 止める条件 | 決めていない(なんとなく続く、なんとなく消える) | 3か月後に見る数字と、下回ったときの動きが決まっている |
最初の1業務をどう選ぶかは、それだけで判断が分かれるところです。選び方の基準はAI導入は何から始めるか|中小企業が失敗しない最初の1業務に書いているので、まだ業務が決まっていない方は先にそちらを読んでから戻ってきてください。
この章の結論。止まるかどうかは、ツールを選ぶ前の「業務名まで落ちているか」「3つの役に名前が入っているか」で見分けられます。この2つが埋まっていない見積もりは、金額を比べる段階にまだ来ていません。
企業のAI導入が失敗する原因を、止まった時点で分ける
企業のAI導入の失敗原因は、「決める前」「作っている途中」「使い始めた後」の3つの時点に分かれます。時点が違えば原因も防ぎ方も違うので、「AI導入 失敗」とひとまとめにせず、自社がどの時点で止まりやすいかを先に見ます。
決める前の失敗。稟議に業務名が無い
いちばん多いのが、稟議書や依頼メールの目的欄に「AIによる業務効率化」とだけ書かれている状態で始まる失敗です。依頼を受けた会社は「何をしたいですか」と聞きますが、社内で答えられる人がいないので、提案が「まず全社員向けの研修」のような汎用的なものに寄ります。研修は受けたが、翌週から使う場面が無い、という結果になります。
防ぎ方は、依頼の前に3つだけ書くことです。業務名、月の件数、いまの1件あたりの所要時間。この3つがあると、提案する側は「その業務ならこの範囲を、この期間で」と具体的に返せます。3つが書けない業務は、まだ導入の対象にしないほうが安全です。
作っている途中の失敗。決める人が打ち合わせに出ない
社長や院長が「任せた」と言って打ち合わせに出なくなると、担当者は毎回持ち帰って決裁を待つことになります。よくあるのは、判断が1つ止まるたびに次の打ち合わせまで待つことになり、当初の予定より大きく遅れたところで熱が冷める、という流れです。
防ぎ方は、決める人が出る打ち合わせを最初に日程で押さえておくことです。全部に出る必要はありません。次の3回に決める人が出ていれば、残りは担当者で進みます。
- 最初の1回:対象業務と範囲を決める回
- 境目を決める回:AIが行う作業と人が確かめる作業の境目を決める回
- 公開前の回:社員に公開する前に確認する回
この3回の日程を先に押さえられないなら、着手を遅らせたほうが結果的に安く済みます。
使い始めた後の失敗。確かめる人が兼務で潰れる
AIの出力を確認する役を、元々その業務をしていた人に「見ておいて」と足しただけの状態で始めると、確認が溜まります。溜まった確認をまとめて片付ける日が来て、「前のやり方のほうが早かった」と元に戻ります。AIが悪いのではなく、確認の時間を見積もっていなかったのが原因です。
防ぎ方は、確認にかかる時間を先に数えることです。1件あたり何分、月に何件、誰が、いつ。確認の合計が、その人の週の業務時間に対して大きすぎる設計なら、任せる範囲を狭めます。どこからを「大きすぎる」とするかは自社で決める目安で、たとえば「週の業務時間の1割を超えたら見直す」のように、始める前に線を引いておきます。あわせて、確認して直した内容を書き残す場所(表計算ソフトの1シートで十分です)を決めておくと、直しの傾向が見えて、AIに渡す指示を改善できます。
決めていない間に起きる失敗。社員が個人アカウントで使い始める
範囲と担当を決めるのに時間をかけている間に、社員が個人のアカウントで生成AIを使い始め、取引先の情報を入力してしまう、という失敗も起きます。導入を決める前の段階でも、「入力してよい情報」だけは先に決めておく必要があります。線引きの決め方はシャドーAI対策の3ステップ|禁止せず情報漏洩を止める仕組みにまとめています。
この章の結論。自社が止まりやすい時点は、稟議に業務名があるか、決める人が3回の打ち合わせに出られるか、確認する時間を数えたか、の3つで分かります。どれか1つでも「まだ」なら、そこが先に埋めるべき箇所です。
AI導入前にやるべきこと。決める5項目と決定シート
AI導入前にやるべきことは、次の5項目を社内で決めることです。
- 対象業務
- AIと人の境目
- 担当の3役
- 止める条件と続ける条件
- 社内に残る作業
この5つを順に埋めた紙が、そのまま依頼書と見積もり依頼の代わりになります。
1つ目。対象業務を1つに絞り、入口と出口を書く
最初に決めるのは、業務を1つに絞ることです。「事務作業」ではなく「毎月の請求書入力」のように、入口(何がどんな形で届くか)と出口(何がどこに入って終わりか)が書ける単位まで落とします。
選ぶ基準は3つです。
- 月20件以上ある:件数が少ない業務は、覚える前に忘れます。月に数件の業務は最初の対象にしません
- 手順が人によって変わらない:担当者ごとにやり方が違う業務は、先にやり方を1つにそろえる作業が要り、AI導入より前の話になります
- 間違えても翌日に直せる:社外に出る前に人が確認できる業務から始めます。契約書の最終版や薬剤の指示のように、間違いが取り消せない業務は最初に選びません
診療所なら「紹介状への返書の下書き」、建設業なら「日報の集計」、士業事務所なら「顧客からの問い合わせメールの仕分け」のように、業種ごとに該当する業務があります。入口がメールやフォームで届く業務のほうが、紙で届く業務より早く動きます。
2つ目。AIが行う作業と、人が確かめる作業を分ける
次に、その業務を5〜8段階に分解し、段階ごとに「AI」「人」「AIのあと人が確認」の印を付けます。判断の基準は1つで、間違えたときの影響が社外に出る段階には、必ず人の確認を入れることです。
| 段階(請求書入力の例) | 誰が行うか | そう分ける理由 |
|---|---|---|
| 請求書を受け取る | 人 | 届く経路が複数あり、そろえるのは人の仕事 |
| 金額・日付・取引先を読み取る | AI | 読み取りの間違いは次の段階で人が拾える |
| 勘定科目を当てる | AIのあと人が確認 | 科目の間違いは決算に影響するため確認を入れる |
| 会計ソフトに登録する | AI | 確認済みの内容を転記するだけの段階 |
| 月次で残高と突き合わせる | 人 | 社外(税理士・銀行)に出る数字の最終確認 |
この表を作ると、見積もりを取る相手に「ここからここまで」と示せます。相手が同じ表を持ってきて「うちはこの段階もAIに任せられます」と言うなら、その理由を聞けば良し悪しが判断できます。
3つ目。担当を3つの役で決める。決める人・回す人・確かめる人
担当は1人ではなく、3つの役で決めます。役ごとに求められるものが違うので、1人が全部を兼ねると、どれかが抜けます。
- 決める人:範囲を広げる・狭める・止める、を決める人です。経営者本人か、権限を渡された1人。AIに詳しい必要はありません。その業務の結果に責任を持っている人が務めます
- 回す人:週に1回、使われているか・どこで止まっているかを見て、決める人に報告する人です。週30分ほどの時間が取れる人なら、若手でも構いません
- 確かめる人:AIの出力を確認し、直した内容を記録する人です。その業務を実際に行っていた人が向いています。確認の時間を先に業務時間に組み込みます
「社内でいちばん詳しい人」を担当に置く会社は多いのですが、詳しい人は往々にして別の業務の担当で、決める権限も持っていません。詳しさは回す人に必要な程度で足ります。
小さな会社では、決める人と確かめる人が同じ社長になることもあります。それでも構いませんが、回す人だけは別に置いてください。決める人が自分で回すと、忙しい月に見なくなります。
4つ目。止める条件と続ける条件を、先に数字で決める
始める前に、3か月後に見る数字と、その数字が出たときの動きを決めておきます。数字は自社で決めるものなので、次はあくまで例です。
- 続ける:1件あたりの所要時間が、導入前の半分以下になっている
- 範囲を狭める:確かめる人が直した割合が3割を超えている(AIに任せる段階が多すぎる)
- 止める:2週間、誰も開いていない。これはAIの問題ではなく担当の問題なので、担当を変えるか止めるかを決める
この条件が無いと、なんとなく続いてなんとなく消えます。条件があれば、3か月後の打ち合わせが「続けるか、狭めるか、止めるか」の30分で終わります。撤退ラインの決め方をもっと詳しく知りたい方は、冒頭で案内した失敗事例の記事に判断の例を載せています。
5つ目。任せても社内に残る作業を書き出す
外部に頼んでも、社内に残る作業があります。契約前に書き出しておかないと、「全部やってくれると思っていた」と「そこは御社の作業です」の食い違いが起きます。
- 入力元をそろえる:メール・紙・チャットに散っている入口を1つにする作業は、社内でしかできません
- ルールを決める:入力してよい情報、社外に出す前の確認者。決めるのは社内です
- 確認と記録:2つ目で決めた「人」の段階は、ずっと社内の作業として残ります
- 社員への説明:なぜ入れるか、何が変わるかを話すのは経営者の仕事です。外部の人が話しても「やらされている」感が残ります
- 契約と支払い:利用料の更新、人数の増減、解約の判断
5項目を1枚にまとめた決定シートです。そのまま社内で埋めて、見積もりを取る相手に渡せます。
【AI導入 決定シート】 記入日:[ 年 月 日]
1. 対象業務
業務名:[例:毎月の請求書入力]
入口(何がどう届くか):[例:取引先からPDFがメールで届く]
出口(何がどこに入って終わりか):[例:会計ソフトに登録し、月次で突き合わせ]
月の件数:[ 件] いまの1件あたりの所要時間:[ 分]
2. AIと人の境目(5〜8段階に分け、段階ごとに AI/人/AIのあと人が確認 を記入。使わない行は空欄のまま)
① [ ]→[ ]
② [ ]→[ ]
③ [ ]→[ ]
④ [ ]→[ ]
⑤ [ ]→[ ]
⑥ [ ]→[ ]
⑦ [ ]→[ ]
⑧ [ ]→[ ]
3. 担当
決める人:[氏名] 出席する打ち合わせ:初回/境目を決める回/公開前
回す人:[氏名] 週1回、[曜日]に見る
確かめる人:[氏名] 確認の時間:1件[ 分]×月[ 件]=月[ 時間]
4. 3か月後の判断( 年 月 日に見る)
続ける条件:[例:1件あたりの時間が 分以下]
範囲を狭める条件:[例:直した割合が %超]
止める条件:[例:2週間、誰も開いていない]
5. 社内に残る作業と、担当
入力元をそろえる:[氏名] ルールを決める:[氏名]
社員に説明する:[氏名・日付] 契約・支払い:[氏名]
決めておくと、3か月後に手元に残るもの
5項目を決めて始めた会社に3か月後に残るのは、時間の削減だけではありません。次の4つが手元に残ります。
- 業務1つ分の手順書:入口から出口までの流れが、社内の言葉で書かれたもの
- AIと人の境目の表:どの段階を誰が行うかを決めた表
- 週ごとの記録:回す人が残した、使われているか・どこで止まったかの記録
- 判断の記録:「続けるか狭めるか止めるか」を、何の数字を見て決めたかの記録
この4つは、2つ目の業務に広げるときの雛形になります。
効果を数字で保証することはできません。業務によっては、3か月では所要時間がほとんど変わらないこともあります。それでも境目の表と記録が残っていれば、「どの段階で時間が消えているか」が見え、次に何を変えるかを決められます。効果の測り方そのものはAI業務効率化の効果を数字で出す方法|削減時間の測り方で扱っています。
この章の結論。決定シートの5項目が埋まっていれば、見積もりを取る段階に進めます。埋まらない項目があるなら、そこが「自社ではまだ決められないこと」であり、最初に相談すべき内容です。
AI導入の費用は何で変わるか。相場は内訳で見る
AI導入の費用は、「利用料」「設計」「構築」「研修と定着」の4つの内訳で決まります。金額を動かすのは、対象業務の数、データが紙かデジタルか、決める人が出る打ち合わせの回数、そして誰が確認するかです。総額だけを比べても、何が入って何が入っていないかは分かりません。
| 内訳 | 何に払うか | 金額を動かす要因 |
|---|---|---|
| 利用料 | AIツールの月額。人数×単価 | 使う人数、法人向けプランかどうか(入力した情報が学習に使われない設定を含むか) |
| 設計 | 業務の分解と、AIと人の境目を決める作業 | 対象業務の数、手順が文書になっているか、決める人が打ち合わせに出られるか |
| 構築 | 社員が使う入力フォーム、既存ソフトとの連携、手順書 | 既存システムと連携するか、入口が紙か、例外処理がどれだけあるか |
| 研修と定着 | 社員向けの説明会、使い始めてからの伴走 | 参加人数、対面かオンラインか、伴走の期間(1か月か3か月か) |
利用料は、使う人数と、法人向けプランかどうかで決まる月額です。単価はサービスごとに違い、改定もあるため、この記事では金額を書きません。正確な金額は各社の公式サイトで確認してください。法人向けと個人向けで何が違うかはAIの法人プランと個人プランの違い|学習利用と管理機能で選ぶにまとめています。
設計・構築・研修は、業務1つの規模で済むか、業務が複数で既存システムとの連携が入るかで、金額が大きく変わります。業種や規模によっても違うため、相場を一つの数字で示すことはできません。自社の金額は、内訳を分けた見積もりを取って確かめてください。予算の段階ごとにできる範囲はAI業務自動化は月3万円から|中小企業の予算別・導入3ステップで扱っています。
見積もりを見るときは、「一式」と書かれていたら4つに分けて出し直してもらいます。安く見える見積もりの典型は、設計が入っていない(業務の分解は社内でやる前提)か、定着が入っていない(作って納品したら終わり)かのどちらかです。どちらも悪い提案ではありませんが、その分の作業が社内に残ることを知ったうえで比べる必要があります。
補助金を使う場合、ITツールの導入にはIT導入補助金(公式サイト)、社員研修には人材開発支援助成金(厚生労働省)が候補になります。対象になるかどうかは、事業の内容や年度ごとの募集要項によって変わり、金額や締切もそのつど改定されるため、この記事には書きません。必ずリンク先の最新の募集要項を確認し、申請の可否は支援機関か専門家に相談してください。
この章の結論。費用の比較は、総額ではなく4つの内訳と「社内に残る作業」をセットで見ます。安い見積もりは、設計か定着のどちらかを社内で担う前提になっていることが多く、そこを担える人がいるかで実際の負担が決まります。
任せて大丈夫か。契約前に確認する質問の表
任せて大丈夫かは、実績の社名より、契約前の質問への答え方で分かります。次の8つを聞いて、「立ち止まる答え」が返ってきたら、その場で契約せずに持ち帰ってください。
| 確認すること | 聞き方 | 立ち止まる答え |
|---|---|---|
| 対象業務を先に聞くか | 「うちの業務のどれから始めるのがいいですか」 | 業務を聞かずに、ツールや研修の話から始まる |
| AIと人の境目を表にするか | 「どの段階を人が確認する設計ですか」 | 「全部AIでできます」「そこは運用次第です」 |
| 決める人の関与 | 「私が出る打ち合わせは何回ですか」 | 「お任せください、出なくて大丈夫です」 |
| 成果物に手順書が含まれるか | 「終わったとき、社内に何が残りますか」 | 成果物の説明がツールの画面だけで、手順書やルールの話が無い |
| 入力した情報の扱い | 「入力した情報は学習に使われますか。どこに保存されますか」 | 即答できない、または「たぶん大丈夫」 |
| 契約期間と止め方 | 「3か月で止める判断をしたら、費用はどうなりますか」 | 最低契約期間が長く、途中で止める条件の説明が無い |
| 社内に残る作業 | 「うちの社員がやることは何ですか」 | 「何もありません」 |
| 実績の中身 | 「同じような業務での実績を、業種ではなく業務で教えてください」 | 大企業の社名は出るが、業務の中身が語られない |
「社内に残る作業は何もありません」という答えは、いちばん気持ちのよい答えで、いちばん危ない答えです。前の章で書いたとおり、入力元をそろえる、ルールを決める、確認する、社員に説明する、は必ず社内に残ります。それを「無い」と言う相手は、始まってから「そこは御社で」と言うことになります。
提案書そのものの読み方はAI導入提案書の読み解き方|経営者が契約前に見る5つの視点に、この表と合わせて使える視点をまとめています。
この章の結論。8つの質問のうち、「決める人の関与」「社内に残る作業」「止め方」の3つは、答えを書面(メールで十分です)で残してから契約します。口頭の「大丈夫です」は、3か月後には残っていません。
現場で見えた妥協点。うまくいかない条件と、その手前で決めること
範囲と担当を決めても、次の条件が重なると止まりやすくなります。どれも「決め方が悪い」のではなく、「そもそも今は始める時期ではない」か「最初の業務を間違えている」というものです。
- 決める人が本人しかおらず、月に1回しか時間が取れない:3か月で3回の打ち合わせの枠が先に押さえられないなら、着手を遅らせたほうが安く済みます。始めてから止まると、設計の費用だけが残ります
- 対象業務が月に数件しか起きない:使う機会が少ないと、確かめる人が手順を覚える前に忘れます。月20件以上の業務に対象を変えます
- 入口が手書きの紙:読み取りの精度を確かめる作業に時間が溶けます。メールやフォームでデジタルに届く業務を先に選び、紙の業務は2つ目以降にします
- 顧問の確認が要る領域を最初に選んでいる:税理士・社労士・弁護士の回答待ちで止まります。最初は社内だけで完結する業務にし、顧問が関わる業務は線引きを顧問と決めてから
- 「詳しい若手」に決める役まで渡している:その人は範囲を広げる・止めるを決められません。決める役だけは、結果に責任を持つ人に戻します
正直に書くと、最初の1業務の成果は地味です。月20件の業務で1件20分が10分になっても、月に3時間ほどしか浮きません。
それでも最初の業務で境目の表と記録の型ができれば、2つ目・3つ目の業務では、その型を使い回せるぶん設計の時間が短くなることが多いです。最初の業務に「大きな効果」を求めると、対象を広げすぎて止まります。
「たたき台はAIに任せ、判断は人がする」という線引きの考え方は、この記事の主題ではないので詳しくは書きません。社員にどの順で教えるかまで含めた線引きはAI業務効率化を社員に教える順番|社内研修の中身と進め方にまとめています。
この章の結論。うまくいかない条件のうち、「決める人の時間」だけは外部で補えません。「月に数件」「入口が紙」「顧問の確認が要る」の3つは対象業務を変えれば避けられ、「詳しい若手に決める役を渡している」は決める役を結果に責任を持つ人に戻せば直せます。条件に当たったら「やめる」ではなく「業務か担当を変える」と判断してください。
自社で行う範囲と、頼む範囲
ここまでの内容で、自社で行うことと外部に頼むことは、次のように分かれます。
- 自社で行う範囲:対象業務を1つ選ぶ、決める人を置く、入力してよい情報を決める、確かめる人の時間を確保する、社員に説明する。決定シートの1と3と5は、外部の人には埋められません
- 頼める範囲:業務の分解、AIと人の境目の表づくり、社員が使う入力フォームと手順書の作成、使い始めてからの記録の見方と、3か月後の判断材料づくり
決定シートの1が埋まらない、つまり「どの業務からか」の段階で迷っている場合も、その迷いごと相談できます。範囲と担当を決めるところからのAI導入支援では、1つの業務を選び、AIが行う作業と人が確かめる作業に分け、社員が使う入力フォームと手順書まで作ります。頼んだあとに手元に残るのは、境目の表、入力フォーム、手順書、そして月ごとの「続けるか狭めるか」の判断記録です。
AI導入の範囲と担当についてよくある質問
社長の私はAIに詳しくありません。それでも「決める人」は私が務めるべきですか?
はい。決める人に必要なのは詳しさではなく、範囲を広げる・狭める・止めるを決められる権限です。詳しさは「回す人」に週30分の時間があれば足ります。社長が決める役を若手に渡すと、その人は止める判断ができず、なんとなく続いてなんとなく消えます。
「まず全社員に研修を」と提案されました。業務を1つ決める前に研修から入るのは失敗のもとですか?
研修が先でも失敗とは限りませんが、「翌週から使う業務」が決まっていない研修は、内容を忘れる前に使う場面が来ません。研修を受けるなら、決定シートの1(対象業務)だけは先に埋め、研修の題材をその業務にしてもらうよう相手に伝えてください。
半年前にAI導入を試して止まっています。再開するときは何から見直せばいいですか?
ツールを変える前に、止まった時点を特定します。決める前(業務名が無かった)、作っている途中(決裁待ちで遅れた)、使い始めた後(確認が溜まった)のどれかです。時点が分かれば、決定シートの該当項目だけ埋め直せば再開できます。多くの場合、ツールはそのまま使えます。
院長1人で決めている診療所です。担当の3役を3人分そろえられません。
決める人と確かめる人は院長が兼ねて構いません。ただし「回す人」だけは、受付や事務の方に週1回・30分の役として別に置いてください。院長が自分で回すと、忙しい月に見なくなり、そこで止まります。回す人の仕事は、使われているかを見て院長に一言報告するだけです。
「要件定義から全部こちらでやります」と言われました。それなら範囲も担当も任せてよいですか?
業務の分解と境目の表づくりは任せられますが、「どの業務からか」と「誰が決めるか」は任せられません。相手が決めた業務は、社内の誰も自分の仕事だと思わないからです。決定シートの1と3だけは自社で埋め、それを持って要件定義の打ち合わせに臨んでください。
今日できる最初の一歩は、決定シートの1行目に業務名を1つ書くことです。「業務効率化」ではなく、「毎月の請求書入力」のように名前で書けるかどうかで、いま導入を進められる段階かが分かります。業務名は書けたが、AIと人の境目をどこに引くか迷うという方は、事務のAI業務効率化|1日を分解して任せる作業を決める進め方で、1日の業務を分解する手順を先に見ておくと、境目の表が書きやすくなります。
ここまで読んで、業務名までは決められたが、境目の表と担当の置き方を自社だけで決め切るのは難しそうだと感じた方は、コレットラボにお話を聞かせてください。
いまの業務の流れと、誰がどこまで時間を取れるかを伺ったうえで、最初の1業務の範囲と担当を一緒に決めるところから始められます。決定シートを埋めるところからのAI導入支援の内容はリンク先で確認できます。初回のご相談は無料です。
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