AIに経営相談できること|壁打ちに向く問いと専門家に回す相談
この記事の要点
- AIに向くのは論点出し・反対意見・数字を読むたたき台まで
- 税務・法務・労務は専門家へ。AIは質問リストづくりに使う
- 入力してよい情報の表と、回答を確かめる6項目を本文に掲載
AIに経営相談してよいのは、決めるべき論点の洗い出し、自分の案の弱点探し、試算表などの数字を読むときのたたき台づくりまでです。税額や節税、契約、解雇や残業代のような税務・法務・労務の判断は税理士・弁護士・社会保険労務士に回し、投資や撤退のような最終的な決断は経営者が行います。
自分の仕事にAIを使えるか試し始めた経営者・役員の方に向けた記事です。読み終わる頃には、どの問いをAIに渡し、どの情報を入れず、返ってきた回答をどう確かめるかを、自社のルールとして決められる状態を目指します。
事業計画書そのものをAIで書く手順は事業計画書をAIで作成する手順|経営者が決める数字と任せる下書きで解説しています。この記事では、経営の相談相手としてAIを使う場面に絞ります。
Contents / 目次
AIに経営相談できることと、AIに任せない判断
AIは「考える材料を広げる相談」に向き、「正解を決める相談」には向きません。論点を挙げる、反対意見を出す、数字の変化を指摘するといった作業は得意です。一方で、AIは自社の事情をすべて知っているわけではなく、もっともらしい誤りも返します。
壁打ちとは、自分の考えを相手にぶつけ、返ってきた質問や反論をもとに考えを詰めていく相談のやり方です。AIは夜中でも、同じ質問を何度しても相手になります。ただし、経営の結果に責任を負わない相手だという点は、役員や顧問との相談と大きく違います。
| 相談の内容 | AIへの向き不向き | AIに任せる作業 | 最後に確かめる先 |
|---|---|---|---|
| 何を決めるべきかの論点出し | 向く | 考えるべき論点の候補を挙げる | 経営者 |
| 値上げ・新規事業の案の弱点探し | 向く | 反対意見、取引先の反応の想定 | 経営者・現場の担当者 |
| 試算表・資金繰りの読み解き | 条件つきで向く | 前月との差、気になる数字の候補 | 顧問税理士 |
| 業界の動向・競合の調べもの | 条件つきで向く | 調べる観点、資料の要約 | 公的統計・各社の公式発表 |
| 税額・節税策・申告 | 専門家に回す | 税理士への質問リストづくり | 税理士 |
| 契約・取引先とのトラブル | 専門家に回す | 論点と確認したい条項の書き出し | 弁護士 |
| 就業規則・残業代・解雇 | 専門家に回す | 社会保険労務士への質問リスト | 社会保険労務士(紛争は弁護士) |
| 投資・撤退・採用の最終決断 | 任せない | 判断材料の比較表 | 経営者 |
表のとおり、税務・法務・労務の相談でもAIは使えます。ただし使い道は「答えをもらう」ことではなく、専門家に質問する前の準備です。資金繰りの数字をAIに渡す前に確かめることは、資金繰り表をAIで見直す|入力してよい数字と確認する項目で詳しく扱っています。
この章の結論。AIに渡すのは「決めるための材料づくり」までです。決めること自体と、資格が要る判断は渡しません。
AIに経営相談するやり方と5つのステップ
AIへの経営相談は、問いを1つに絞り、入れる情報を決め、案と前提を渡し、反対意見を出させ、回答を確かめる、の5ステップで進めます。順番を飛ばすと、一般論か、自社に当てはまらない答えが返ってきます。
ステップ1 決めたいことを1つの問いにする
最初に、いま決めたいことを1文の問いに書き出します。「うちの会社はこれからどうすればいいか」のような広い問いを渡すと、どの会社にも当てはまる一般論が返ってきます。
| 問いの例 | 壁打ちに向くか | 理由 |
|---|---|---|
| 来期の値上げを5%にするか8%にするか、判断に必要な論点は何か | 向く | 決めることが1つで、比べる軸を出させられる |
| 新規事業を始める前に確かめるべきリスクを挙げてほしい | 向く | 見落としの候補出しはAIが得意 |
| 営業を1人増やすか、営業事務を1人雇うか、比べる観点は何か | 向く | 比較表の形で返させられる |
| うちの会社はどうすれば売上が伸びるか | 向かない | 広すぎて一般論になる |
| この節税策を今期使えるか | 専門家に回す | 税務の判断で、誤ったときの損失が大きい |
| この取引先と契約してよいか | 任せない | 判断そのものを渡している |
ステップ2 AIに入力してよい情報を決める
相談を始める前に、AIに入れる情報と入れない情報を決めます。経営の相談は、売上や取引先、社員の情報に触れやすいからです。迷った情報は、記号に置き換えるか、一般化した問いに変えてから入れます。
| 情報 | 入力してよいか | 入れ方 |
|---|---|---|
| 業種・従業員数・年商の規模・課題の概要 | 入れてよい | そのまま書く |
| 売上・粗利・固定費などの数字 | 社内ルールで認めたプランなら可 | 千円単位に丸め、単位と期間を添える |
| 取引先名・顧客名 | 原則入れない | 「主要取引先A(売上の約3割)」のように記号に置き換える |
| 社員の給与・評価・健康の情報 | 入れない | 相談は社会保険労務士に回す |
| 未公表の資金調達・事業譲渡・取引条件 | 入れない | 「新しい借入を検討中」のように一般化する |
| 秘密保持契約を結んだ相手の情報 | 入れない | 契約で第三者への開示が禁じられている場合がある |
どこまで入れてよいかは、使っているプランと設定で変わります。プランごとの違いはAIの法人プランと個人プランの違いで解説しています。入力した内容の扱いと設定の方法は、利用しているAIの公式ヘルプで確認してください。
役員や社員も個人でAIを使い始めていて、入力してよい情報がまだ社内で決まっていない場合は、経営者と社員で考えるAI活用研修で、情報の扱い方を先に決める進め方もあります。
ステップ3 自分の案と前提を渡す
問いと一緒に、自社の前提と自分の今の案を渡します。前提が無いと、AIは足りない情報を推測で埋めて答えるからです。作り込んだ指示文は要りません。次の短いたたき台から始め、あとはAIと対話しながら自社の状況に合わせて詰めてください。
あなたは中小企業の経営に詳しい相談相手です。
[業種・従業員数・年商の規模]の会社です。
いま決めたいのは「[決めたいこと1つ]」です。
私の今の案は「[自分の案]」で、理由は[理由]です。
判断に必要な論点を挙げてください。
分からない情報は推測で埋めず、私に質問してください。
最後の1行が大事です。この1行があると、AIは主要取引先の比率や原価の内訳のような、足りない情報を質問で返してきます。その質問に答えていくこと自体が、自分の考えを言葉にする作業になります。
たとえば従業員30人の部品加工会社が「主要取引先への6%の値上げ」を相談すると、返ってくるのは、価格改定を伝える時期、原価上昇を示す資料、断られた場合の代わりの案、競合の価格といった論点です。このうち自社に当てはまるものと検討済みのものを分けるのは、経営者の作業です。
ステップ4 反対の立場から弱点を出させる
AIは、利用者の案に賛成する方向の答えを返しやすい傾向があります。そのため、立場を指定して反対意見を出させます。次の4つの聞き方を、ステップ3の会話に続けて使ってみましょう。
- 「この案に反対する取締役の立場で、反論を5つ挙げてください」
- 「主要取引先の購買担当者の立場で、この値上げの知らせを受けたときの反応を書いてください」
- 「この案が1年後に失敗していたとしたら、原因として何が考えられますか」
- 「案Aと案Bを、費用・期間・失敗したときの損失で比べる表にしてください」
3つ目は、失敗した前提から原因を逆にたどる聞き方です。「うまくいくか」と聞くより具体的な弱点が出やすく、事前に手を打てる点が見つかります。
ステップ5 AIの回答を6つの項目で確かめる
返ってきた回答は、次の6項目で確かめてから使います。1つでも引っかかる部分は、判断の材料から外します。
- 数字:AIが計算した合計や割合を、元の表で検算したか
- 出典:統計・業界の平均・法律や制度の話に、公式の出典があるか。無ければ使わない
- 前提:最初に伝えた条件(単位、期間、税抜か税込か)が回答に反映されているか
- 自社の事情:社名を伏せても成り立つ回答なら、渡した前提が足りない
- 専門家の領域:税・法律・労務に触れた部分は、質問リストに移したか
- 決める人:「AIがこう言った」を社内説明の根拠にしていないか
生成AIが、事実と異なる内容をもっともらしく答えることをハルシネーションと呼びます。AIの回答には誤りが含まれることがあるため、重要な情報は元の資料や公式の情報で確かめてから使ってください。起きる理由と業務での防ぎ方は生成AIのハルシネーションはなぜ起きる|業務で減らす5つの手順で解説しています。
この章の結論。AIへの経営相談で品質を分けるのは、指示文の上手さではなく、渡す前提と回答の確かめ方です。問い1つ、前提、反対意見、6項目の確認を毎回くり返せば、一般論ではない材料が集まります。
税務・法務・労務を専門家に回す判断と、AIで作る質問リスト
税務・法務・労務に触れる相談は、AIの回答で決めずに専門家に回します。理由は2つ。誤ったときの損失が大きいことと、AIの回答には責任を負う人がいないことです。
税務については、法律で線が引かれています。税理士法第52条は「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。」と定め、同法第2条で税理士業務に税務相談を含めています。AIが税金について答えても、それは資格を持つ税理士の税務相談ではありません。
| 分野 | 回す先 | 回す相談の例 | AIに任せてよい準備 |
|---|---|---|---|
| 税務 | 税理士 | 節税策の可否、申告、役員報酬の決め方、消費税の扱い | 質問したい点の書き出し、試算表の前月との差の確認 |
| 法務 | 弁護士 | 契約書の修正、取引先とのトラブル、未回収の売掛金 | 契約書の論点と、確認したい条項の書き出し |
| 労務 | 社会保険労務士(紛争は弁護士) | 就業規則の変更、残業代、社会保険の手続き | 規程の変更点と質問の書き出し |
| 資金調達 | 金融機関・顧問税理士 | 借入の条件、返済の計画 | 説明資料の構成案 |
契約書の論点をAIで書き出す手順は契約書をAIでチェックするプロンプト例と失敗しない注意点、就業規則は就業規則のAIチェック手順5ステップ|社労士確認の線引きで扱っています。
専門家に回す相談でのAIの使い道は、面談を短く、正確にすることです。顧問税理士との面談は時間が限られます。事前にAIで質問を書き出しておけば聞き漏れが減り、税理士も資料を準備したうえで答えられます。
顧問税理士との面談で質問したいことを書き出したいです。
テーマは「[例:来期の役員報酬の決め方]」です。
前提は[決算月・従業員数・前期の利益の規模]です。
答えを推測せず、税理士に確認すべき質問を10個、重要な順に並べてください。
それぞれの質問に、税理士に渡すとよい資料を添えてください。
返ってきた質問リストに、税額の見込みや「この方法なら節税になる」といった答えが混ざっていたら、その部分は消してから税理士に送ります。AIの答えを前提に質問すると、面談の時間が誤りの訂正に使われてしまいます。
税務・法務・労務の判断は、AIの回答を根拠に決めないでください。AIに任せるのは、専門家に何を質問するかを書き出す準備までです。
AIへの経営相談でつまずく4つの条件と防ぎ方
AIへの経営相談でつまずく原因は、AIの性能より、問いの出し方と前提の伝え方にあります。次の4つは、経営の相談だから起きやすい条件です。
自分の案に「良いと思う」と添えて聞くと、賛成の答えが返りやすい
「この値上げ案で良いと思うのですが、どうでしょう」と聞くと、AIは案の良い点を並べた回答を返しやすくなります。賛成の回答を読んだ経営者が、弱点を確かめないまま決めてしまうことがあります。
防ぐには、自分の案だと言わずに「案Aと案B」として並べて比べさせるか、ステップ4のように反対の立場を指定します。賛成の答えしか返ってこない場合は、その会話を閉じて、反対の立場から聞き直しましょう。
試算表の単位や期間を伝えないと、計算がずれる
試算表を貼り付けるとき、単位(円か千円か)、期間(単月か累計か)、税抜か税込かを書かずに渡すと、AIは推測で読みます。累計の数字を単月として読めば、利益率も前月との比較も大きくずれます。
防ぐには、数字の前に「単位は千円、税抜、4月〜9月の累計、決算月は3月」のように前提を1行書きます。AIが出した合計や割合は、表計算ソフトで検算してから使います。
1つの会話で何日も相談を続けると、前の条件が混ざる
同じ会話で、値上げの相談のあとに採用の相談を続けると、最初に伝えた条件が回答に反映されにくくなることがあります。前の論点の前提が、別の論点の回答に入り込むこともあります。
防ぐには、論点ごとに新しい会話を始めます。会社の概要と決めたいことを書いた「前提メモ」を手元のファイルに作っておき、毎回冒頭に貼ります。会話の終わりに「ここまでで決まったことと未決のことを箇条書きにして」と依頼し、その結果を次回の前提メモに足します。
AIが挙げた業界の平均や制度の要件を、そのまま説明資料に使う
AIは「業界の平均は○%」「この補助金は○○が条件」のように、出典を示さずに数字や要件を返すことがあります。それを銀行や取締役会への資料に使うと、根拠を質問されたときに答えられません。補助金の要件は毎回の公募で変わることもあります。
防ぐには、資料に載せる数字と要件を1つずつ、公的統計や制度の公式ページで確かめます。確かめられないものは資料から消します。補助金は、最新の公募要領で要件を確認してください。
この章の結論。4つとも、問いの出し方と前提の書き方を変えれば防げます。賛成しか返らない、計算が合わない、と感じたら、まず渡した問いと前提を見直してください。
自社で試すことと、会社として仕組みにすること
最初は経営者1人で、1か月ほど試すのが現実的です。週1回、決めたい問いを1つ選んで壁打ちし、「問い・入れた情報・役に立った回答」を3行で記録します。1か月分の記録があれば、AIに向いた問いと向かなかった問いを自社の実例で分けられ、その一覧が社内ルールの下書きになります。
会社として仕組みにするのは、毎月の試算表の読み解きや経営会議前の論点出しのように、同じ相談を毎月くり返す場合と、役員や社員にも使わせる場合です。仕組みにするときは、次の4つを決めます。
- 渡す数字の様式:どの表の、どの項目を、どの単位でAIに渡すか
- 入力しない情報:取引先名・社員の個人情報など、記号に置き換える情報の一覧
- 確かめる担当者:AIの回答を誰が、6項目のどれで確かめるか
- 専門家との分担:顧問税理士に回す数字と、社内で読む数字の分け方
月次の数字の読み解きのように、1つの業務として毎月くり返すなら、AI導入支援・DX支援で、AIに任せる業務の洗い出しから始める進め方もあります。AIに任せる業務と自社で判断を続ける業務を分け、業務専用の入力フォームと社員向け手順書まで作れます。
AIへの経営相談でよくある質問
顧問税理士がいるのに、AIに経営相談する意味はありますか?
あります。使い道は、税理士への相談の代わりではなく準備です。面談の前に論点と質問をAIで書き出しておけば、限られた時間で聞き漏れが減ります。税額や節税策の判断は、これまでどおり税理士に確認してください。
試算表をAIに読ませると、決算の数字が外に漏れませんか?
プランと設定によって扱いが変わります。会話をAIの改善に使わない設定か、法人向けプランかを公式ヘルプで確かめてから入れてください。取引先名は記号に置き換え、数字は千円単位に丸めれば、万一のときの影響を小さくできます。
AIに経営相談した内容を、銀行や取締役会への説明に使ってもいいですか?
論点や資料の構成案として使うのは問題ありません。ただし、説明に載せる数字や業界の情報は、元の帳簿や公的統計で確かめた数字に置き換えてください。「AIがこう分析した」は、説明の根拠になりません。
AIでは足りない経営の悩みは、どこに相談すればいいですか?
税務は税理士、契約やトラブルは弁護士、就業規則や社会保険は社会保険労務士です。分野が分からない段階なら、国が47都道府県に設置している無料の経営相談所「よろず支援拠点」で、相談先を決めるところから相談できます。
まずは、いちばん迷っている経営の問いを1行で書き出し、それが税・法律・労務に触れるかどうかだけ確かめてください。触れなければ、この記事のステップ3のたたき台で壁打ちを始められます。社内で使うルールまで決めたい方は、生成AI社内ルールのサンプル|12項目のひな形・情報区分表と決め方も参考になります。
ここまで読んで、試算表の読み解きや会議前の論点出しを、毎月の業務としてAIに任せたいと感じた方は、どの業務から始めるかを決めるところからご相談ください。コレットラボのAI導入支援・DX支援では、時間がかかる業務と扱う情報を一覧にし、AIに任せる業務と自社で判断を続ける業務を分けるところからお手伝いします。
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